第6話 助けた女性と


 

 ……家に連れて行こう。


「こっ……ち、来て……」


 手招きをしてついてくるよう指示する。

 女性は立ち上がった。矢が刺さっていた足を確認する仕草をしたが、特に問題は無いようだ。


 渡したポーションは、1番良いやつだからな。


 女性に何かあってもすぐに対応できるよう、弓に矢をかけながら家へ向かう。

 ある程度離れていれば、恐怖は感じないようだ。


「ねぇ。さっきくれた飲み物のことを聞いてもいいかな?」


 道中、女性が小声で話しかけてきた。


 ……飲み物? あ、ポーションのことか。


「……う、ん」

「あれは一体なんだったのかな? その……君が作ったの?」


 ……あれ? ポーションって気づいてないのか? ……あ、もしかして市販のポーションとは違うから、分からないのか?

 容器は俺が作った物だから、違くて当たり前なんだけどね。


「えと……ポー、ション……僕……作った」

「ポーション……? 薬ってことかな?」

「ぇ……う、うん……」


 彼女はまるで、始めて聞いた言葉である様な反応を見せた。


 この世界ではポーションって言わないのかな? きっと、それと同じようなものはあるだろうけど……。


 そんな会話をしているうちに、我が家へと到着する。


「入って……」


 女性を中に入れ、椅子へと座らせる。

 そこで待つよう指示して、戸棚から毒消しポーションの材料をとって戻った。


 そして、収納部屋から空いたポーション容器を取り出す。

 材料を握り、手から流れ出たポーションを容器へと移した。


 それを渡そうとした時、人恐怖症による恐怖心を感じるがそれどころではない。


「これ……飲んで」

「……!? ……!?」


 女性は何か驚き、言葉を失っている。


 なんだ? ポーションの作り方がおかしかったかな?

 早く受け取ってくれないかな……そういえばまだ毒を説明してなかったな。


「あの矢……毒。こ……れ、毒、消す」

「……え……!?」


 毒のことを伝えると女性は一気に青ざめた。


「は、やく……飲んで……」

「あ……ありがとう……」


 女性はポーションを受け取り、ためらいながらも飲み干した。


 これで毒は大丈夫だろう。


 すぐに女性から離れたが、女性からはなぜすぐにそのことを伝えなかったのかを問われた。

 もし、伝えて焦ったりしたら、心拍数が上がれば毒の周りが早くなり、余計に危険だったということを、たどたどしくも身振り手振りを加えて伝える。


「そっか……私のことを考えてくれたんだね。ありがとう」

「うん……」


 何か文句を言われるのではないかと、身構えていたが心配はいらなかった。


「あ、そうだわ。自己紹介がまだだったわね。私はエアリス・グローラットよ」

「僕……カイト……」


 何気なく自己紹介をした頃には、ちょうどお昼の時間になっていた。



 その後はエアリスさんに、畑から採った野菜と、今日狩った魔獣で食事を振る舞った。

 彼女いわく、俺の腕前は高級店並みらしい。


「とっても美味しかったわ。ありがとう」


 頷き、皿を受け取る。

 その際にも恐怖を感じ、いい加減うっとおしく感じてきた。



 皿の汚れを水魔術で洗い落として片付けた時、エアリスさんが話しかけてきた。


「ねぇ……よければ、カイト君のステータスを見せてもらってもいいかな?」

「ステー……タス?」


ステータスか……まぁ、人恐怖症は見られても不利益はないだろう。

 ……見せて、ということはあのウインドウって人に見えるのか?


 ウインドウを表示してみたものの、見せ方がわからずチラチラと彼女の顔を見る。

 すると、彼女はこちらの様子に気がついた様だ。


「ありがとう。そのままそれ出しておいてね」


 女性は目を閉じ、なにか念じているようだ。

 少しすると、エアリスさんが自分の前にウインドウを表示させた。

 言動からして、あれが俺のウインドウだろう。


「な、なにこれ……!?」


ステータスを見たエアリスさんは手を口に当て驚いている。


 ……なんだ? 何か、変なとこあったか?


 俺が疑問に思う中、彼女はウインドウをスライドさせ、スキル一覧へと移った。


 多分、そろそろだな。


「……え……!?」


 突然かすれた声を上げて、両手で口元を抑え、涙目でゆっくりとこちらを見た。


「あ……あの……ご、ごめんなさい……まさか……こんな……」


 エアリスさんは俺が何に怖がっていたかを知り、罪悪感を感じているようだ。

 だが、別にこの恐怖は本心では無い。心配いらないことを伝えなければ。


「今も……怖、い。でも、大丈夫……」

「……」


 彼女は目に涙を浮かべながら口を押さえ、黙り込んでしまった。


 別にスキルのせいだから、気にしなくていいんだけどな……話題を変えるか。


「あ、あの……な……んで……森、いた?」


 どうしてそんな格好で森にいたのか、なぜ矢を受けていたのか。

 面倒ごとには首を突っ込みたくはないが、やはり気になる。


「あ……えっとね……悪い人達に捕まっちゃたの」

「悪い、人?」

「えぇ、『私を返して欲しかったらお金と交換だ』って言う、悪い人達よ」


 つまり、身代金か。この世界にもそういうのあるんだな。


「でも、私みたいな立場の人を捕まえたら、あとで大変なことになっちゃうのよ?」


 ……服装からして何となく予想はついていたが、おそらく彼女は相当な金持ちだ。

 だが、“立場”という単語を聞くに、それなりに偉い人なのだろうか?


「な、んで?」

「……言ってなかったわね。私ね、グローラット領の領主、グレイス・グローラットの妻なのよ」

「えぇ!?」


 領主!?予想の2、3倍は偉い立場の人だった!

 ……でも、優しい人だし、『ひれ伏せー』とかは無さそうだ。大丈夫だと思う。


 この時俺は驚いたものの、そのうち領主の元へ返せば問題は無いと考えていた。


 しかし、この出来事が俺自身の運命を大きく変えることになるとは思いもしなかった。

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