第4話 5年後
今、俺は木の上で弓を持って息を潜め、獲物を待っている。
「……!」
遠くの方で爆発音が響く。獲物が驚き、こちらへ逃げてくるように設置しておいた、罠型の炎魔術だ。
1つ起動すれば連動して起動するように、調整してある。
だんだんと爆発音が近づいてくる。逃げてきた獲物の姿が見えた。
今回は、3メートルほどの狼型の魔獣のようだ。
よし、いつもの作戦でいいな。
そう判断し、手に持った弓を構える。
「……今!」
射った矢が、狼の右前足へと突き刺さる。狼は悲鳴をあげ、激しく転倒した。
すかさず用意しておいた槍へと持ち替え、狼へと飛びかかる。
スキル“身体強化”
身体能力を底上げし、狼の首へと槍を突き立てる。すかさず、槍をねじり脊椎を切断した。
一瞬で、自分の数倍ある狼を仕留めた。
これだけ大きければ、しばらくは狩りをしなくても大丈夫そうだ。
「ふぅ……よし、帰ろ。“空間魔法 収納部屋”」
空間魔法で覚えた収納部屋へ、魔獣の死骸を入れる。
この収納部屋は、どのくらいの容量があるかは分からないが、かなりの量が入る。それに1度入れれば、入れた瞬間の状態で保存してくれるという便利なものだ。
木々の間を吹き抜ける風を感じる。見上げると、木漏れ日が顔を照らした。
……もうすっかりこの生活にも慣れたな。
帰り道の最中に、ふとそんなことを思った。
慣れたというのも当たり前なのかもしれない。
なんせもうこの世界に来て、5年の月日が流れているのだから。
そういえば、あれからいろんな魔術を覚えたな。
おもむろに自分のステータスを表示させてみた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カイト 人族/9歳
魔力 540000
魔術レベル
炎魔術 Lv5
熱魔術 Lv5
水魔術 Lv5
風魔術 Lv5
土魔術 Lv5
魔法レベル
自然魔法 Lv5
治癒魔法 Lv5
空間魔法 Lv5
付与魔法 Lv5
空気魔法 Lv5
音魔法 Lv5
物体加工 Lv5
ポーション作成 Lv5
スキル一覧
精神系スキルレベル
精神安定 Lv4
人恐怖症 Lv-
技術考案 Lv5
身体系スキルレベル
身体強化 Lv5
身体操作 Lv5
耐性スキルレベル
暴力耐性 Lv4
孤独耐性 Lv3
ーーーーーーーーーーーーーーー
魔術と魔法は全て、賢者で習得した。
どうやら賢者では初めから、Lv5で習得できるようだ。
だが、やはりズルをしているからか、どんなに練習してもLv5から上がることは無かった。
生活に使うには支障はないので構わないのだが、少し残念な気もする。
魔力値は凄く上がってるんだけどなぁ……。
魔法の欄にある、“ポーション作成”は本当に便利だ。材料を手に持って握れば、その材料に見合ったポーション液が流れ出る。
それを水魔術でキャッチして、自作の容器に入れればポーションの完成だ。
ちなみに握った手の中がどうなってるのかは知らない。
しばらく歩いたら我が家が見えてきた。
何度も補強や改装をしたため、今の家はこの世界に来た頃とは比べ物にならないほど、綺麗になっている。
風呂やトイレだって、魔術を使えば再現できた。
中に入り、まずは魔獣を下処理する作業に入る。
解体用で“物体加工”で作ったナイフを手に、湖のほとりに向かう。
収納部屋から魔獣を取り出した。毛皮を剥いだ後、腹部をさいて内臓を取り出し、骨と肉に分けていく。
そして、内臓を収納部屋に入れ、ある場所へと向かう。
そこには5メートル四方の生簀があった。その中に、ツノの生えた魚が10匹程泳いでいる。
「ほら。餌の時間だよ」
生簀の中に向かって、内臓を収納部屋から出した。その瞬間、魚がバシャバシャと音を立てて内臓へと群がる。
鯉にエサを与えたらきっとこんな感じなのだろう。
ちなみに、骨や牙は装飾品作りなど、暇つぶしに使う用にとっておくことにしている。
肉と骨を収納部屋にしまい、家の裏手へと向かう。
すると、20メートル四方程の柵で囲まれた場所に到着した。その柵の中には、牛のような魔獣が6頭ほど草を食んでいた。
「餌の時間だよ!」
そう声をかけると魔獣達は、ゆっくりとこちらに寄ってきた。
収納部屋からピンク色の実を取り出し牛の顔付近へ放り投げる。 魔獣はそれをゆっくりと食べ始めた。
食べる事に夢中な雌牛から、乳を絞る。
収納部屋から出したバケツにどんどん牛乳が溜まった。魔獣が実を食べ終わる頃にはバケツいっぱいになる。
そのバケツを持ったまま、畑の土を水魔術で湿らせて家へ戻る。
昼食を作るにはまだ時間が早い。少しここで休もう。絞ってきた牛乳をコップに移し、一口飲んだ。
……この生活、楽しい。
俺はこの生活を、心の底から楽しんでいた。
誰にも縛られない生活。前世で夢にまで見た生活だ。
命のやり取りがあるから、始まったばかりの頃は、少しビビっていた。
しかし、今となってはこの森に俺に勝てる魔獣は存在しない……と思う。
「……テイルには感謝だね……」
この世界へ送ってくれたテイルに感謝をする。
「……今は何してるんだろう?」
ふと、そんな事を考えた。
この5年間、テイルは1度も会いに来る事はなかった。きっと、仕事で精一杯なのだろう。
胸に穴が開くような、不思議な感覚を感じつつ自分を無理矢理納得させる。
ただ……時折感じるへんな感情はなんなのだろうか? なんだか、心細いというか……無性にテイルに会いたくなるというか……。
「……ん?」
未知の感情について考えながら、牛乳を飲もうとした時、何か鼻に付く臭いを感じ取った。
これは...血の臭いか?
さっき解体した魔獣とは別のものだ。
それに気がついた俺は、家を飛び出しその血の臭いの元へと走り出した。
これは今日仕留めた魔獣の仕業かな? なら、早く処理しないと。
あの狼型の魔獣は頭が良い故に、かなりの厄介者だ。
奴らは、仕留めた獲物をその場に放置し、それを食べに来た自分よりも小さい肉食動物を仕留めるという“待ち伏せ”を行う。
しかし、中には間抜けな奴もいて、その餌として放置した死骸を忘れて、何処かへ行ってしまうことがあのだ。
そうなれば死骸は次第に腐り、そこから病原菌が発生してしまう。
ということを、過去に観察の末に突き止めた。
全く、あの時は大変だったんだぞ!
ここら辺にあの狼が群れで現れたと思ったら、そこら中の獲物を狩られまくって食糧難になったし!
おまけにあいつら、他の奴が仕留めた死骸は食べない主義なのか、完全に放置だし!
汚染された森を、自然魔法で元に戻すのに何週間かかったことか!
というわけで、自分が仕留めた獲物以外の血の匂いがしたら、必ず調査に向かうことにしていたのだ。
血の匂いが濃くなってきた。そろそろだな。
収納部屋から弓を取り出し戦闘態勢をとる。そしてゆっくりと臭い元へと歩み寄った。
この木の向こう側のようだ。
もし死骸のみであれば、狼がどこかに隠れているはずだ。まずはその確認をしないと……。
「……っ!?」
木の幹から覗き込んだ俺は驚き、言葉を失った。
「くっ……うぅ……」
そこには、5年の森での生活で1度も目にしたことのなかった生物がいた。
動物と比べて細く体毛の無い手足に、頭から生やした長い毛。そして、見慣れない“服”を着ている。
「人……?」
そこにいたのは人間の女性だった。
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