第3話 こんな単語初めて聞いたよ

 目が覚めるとそこは見知らぬ土地だった。

 手には布袋が握られていて、中を見ると保存食が沢山入っている。


「……」


 辺りを見渡す。周辺は木に囲まれているが、ここは開けていた。

 目の前にあるのは大きな湖と古い一軒家。湖の奥には岩山が見え大きな滝が流れ込んでいる。

 空が水面に反射していてとても綺麗だ。


 湖に近づき、水面を覗き込むとそこには見覚えのない男の子がいた。


 かなり中性的な人相をしており、丸く大きな目に柔らかそうな頬、そして低い背丈にはまだ幼さの名残が色濃く残っている。

 黒い髪に黒い瞳は日本人の印象が強いが、顔立ちはどこかは断定できないが日本ではない外国の印象をうける。

 第一印象は大人しそうな顔だった。


 来ている服は凝ったデザインのないTシャツ。ズボンもシンプルなものだった。


 念のため右手を上げてみる。映った男の子も同じ動作をした。


 これが……俺?


「……本当に異世界に転生したんだな……」


 ラノベを読んでいた頃には、自分がそんな体験をするなど夢にも思わなかった。


 この世界で……俺は自由に……。


 人生を2度も終えたのにも拘わらず、“自由”という言葉を感じた事は1度も無い。

 だが、この世界では俺を縛るものは何もない。


 何も……。


「……んっ!」


 ぴしゃんと両頬を叩き、頭の中を切り替えた。過去を思い出す必要も、明日を怯える必要もない。


 俺は、俺の望んだ人生を生きるんだ。


「よし、あれを試そう」


 魔術を習う相手がいない俺のために、テイルが用意してくれた“スキル”。



 その名も『賢者』だ。



 このスキルを使えば、様々な魔術や魔法を誰にも習わず習得でき、そこらの人並みには使えるようになると言っていた。

 そこから上達するかどうかは、俺の頑張り次第だそうだ。


「まぁ、転生ボーナスで貰うにはちょっと微妙だけど、有り難いね」


 数々のラノベを読んでいた俺は、『転生ボーナスといえば無双チート能力!』的な考えがあった。だが、別に無双とかしたい訳ではないからこれで満足だ。人に会うつもりも無い。


「じゃあ、早速なにか覚えてみるか」


 右の手の平を下に向けた状態で、前へと突き出す。テイルに教わった通りにスキルを発動させた。


「スキル “賢者”! うわっ!?」


 そう唱えると、自分の足元に魔法陣が出現した。


 テイルはこの次に習得したい魔術を口にしろと言っていたな。……なにがあるかは、その時のお楽しみと教えてもらえなかったけど。


「えーと……ほ、炎魔術!」


 そう叫ぶと、頭の中に炎魔術の使い方が流れ込んできた。

 それと同時に、力の流れ的なものを感じる。魔法陣はその時消えてしまった。


「こ、これでいいのかな?」


 思ったよりあっけなく終わった……。


 頭の中に流れ込んできた魔術の使い方を、試してみることにした。


 まず、先程感じた力の流れを右手に集中させて……魔術で出したいもののイメージを……。

 ……出ないな、炎。


 突き出した手を上下に振ってみるが、何も変わりは無い。


 イメージ不足……? それとも、やり方が違うのかな? 声に出してやってみるか。


「ほ、炎よ出ろ! ……わぁっ!」


 そう口にした瞬間、右手から炎が上がった。と言っても火力はそんなにない。ロウソク程度だ。


 だが、俺は感動していた。


「おおぉ! ほ、本当に出た!」


 その炎は消えろと口にすれば、すぐに消えた。

 炎が消えた事を確認した後、興奮から来る喜びで飛び跳ねる。


 ……我ながら子供みたいだ。中身は大人なのに。


「あ、でもこれ魔力消費とかあるよな? 俺の魔力どれくらいあるんだ?」


 なんとか確かめられないだろうか?

 ……そういえば、テイルはこの世界は自分の情報をステータスで確認できるって言ってたっけ? また声に出して言えばいいのかな?


「ス、ステータス!」


 すると胸の前あたりにウインドウのようなものが出現した。触ってみると、スライドできる。


 スマホみたいだな。持った事無いけど。


 ウインドウには、次のように表記されていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーー


 カイト 人族/4歳

      魔力 45000


 魔術レベル


 炎魔術 Lv5

     各魔術スキル一覧


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 おお、俺の魔力は45000か。

 ……って基準が分からないから、多いのか少ないのか分からないな。でも、さっき習得した炎魔術は、ちゃんと表示されてる。


 だけど魔術レベルってなんだ? 熟練度的なやつ? 今はLv5だけど……。


 少し考えると、テイルは『そこらの人並みには使える』と言っていた事を思い出した。


 あ、なるほど。ということはこの世界の平均はLv5なんだな。となると、最高はLv10とか? いやもっとかな?


 もしかすると、熟練の魔術師とかはLv100とかいってるのかもしれない。……まぁ、それは練習して上げていけばいいか。


 今はそれより、もう1つ確認しておきたいことがある。



 それは、この世界に来たと同時に、経験を元に作られるというスキルだ。



ウインドウをスライドしていくと、下の方に“スキル一覧”という表記があった。


多分これだな。どんなスキルがあるんだ?


ワクワクしながらそれをタップした。


 ……が、俺はそのスキル一覧を見た瞬間に、吹き出してしまった。笑いから起こるようなものではなく、驚愕から起きたものだ。


そこには……。



 ーーーーーーーーーーーーーー


スキル一覧


精神系スキルレベル


精神安定 Lv2

人恐怖症 Lv-


耐性スキルレベル


暴力耐性 Lv4

孤独耐性 Lv2


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「……」


 それを見た俺は吹き出した後、少しの間固まっていた。



 目線の先には 『人恐怖症』の文字。



 暴力耐性とか、孤独耐性とか、精神安定とかは分かるよ? 2回経験した人生では頻繁にあったからね。


 だけどさ……いくらそんなことがあったからって……。


 俺は空を見上げて叫んだ。


「転生して人恐怖症になるのはおかしいよぉ!!」


 テイルに向けた心からの叫びは、虚しくあたりに響いて消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る