第2話 2度ある事は3度あるって転生も含まれるのか

「うむ、決まりだな。では君に授ける“スキル”を説明しよう。君に授けるのは……」



「……という“スキル”だ」

「なるほど。それなら誰かに習わなくても問題なさそうですね」


 そんなチートじみたスキルをもらっていいのだろうか。……まぁ、神様がいいというならそこまでチートではないんだろう。


「では、これで決めることは全て決めた。次の話へと進もう」


 ……次? まだ何かあるのか?


 すると彼は俺へ右手を差し出した。


「私と“友達”にならぬか?」

「……え!?」


 突然そう言われ、声を上げてしまった。


「どうだ? ダメかな?」

「……えと、かっ神様が俺……あっいや、私みたいな奴と友達だなんて……その、恐れ多いというか……なんというか……」


 何とかして返答しようとするが、動揺してまともに話せない。『友達』……それは、自分と無縁の物だと思い、諦めていたものだ。


「ふふ、私は君の目線で言えば“神のようなもの”と言ったのだ。別に本当に神というわけではないのだよ」

「いや、でも……あの」


 今まで友達なんていなかったから、どうしたらいいのか分からない。言葉がなかなか出てこない。

 そんな俺を神様は優しく微笑みかけている。


 ……なんだ?


 何か頰に違和感を覚えた。そこを拭うと、手の甲が濡れている。


 まさか泣いてるのか? 俺は。


「私からすれば、目の前に存在する君は、対等な存在だ。別にあらたまった話し方をする必要もない。頭で考えている時の話し方で構わんよ」

「え!? まさか聞こえてたんですか!?」

「私が名乗った時は『なんだこの人は?』と考えていたな。それが素なのだろう? その話し方でいいのだ」

「ほ……本当ですか……?」

「あぁ、その方が親しみやすいだろう?」


はっ恥ずかしい……まさか考えてることが読まれているとは……。


「ふふ、別に恥ずかしがることはないのだぞ?」


 うわっ……本当に読まれてる。


「そう言っただろう」


 だけど……本当に恥ずかしいのは“友達になろう”って言われただけでこんなに泣いちゃってることだよね……


「それ程、今まで辛かったのだろうよ」


 ついさっき人と関わりたくないと言ったのに、友達が出来て泣くとか矛盾してる……考えない様にしよう。


 神様……テイルはそう言うと、ハンカチのような布を手渡してくれた。


「さて、では今から君の体を作るが、しばらく時間がかかる」


 彼は微笑んで手招きをする。


「その間、友として色々語り合おうじゃないか。そうだ、茶でも用意しよう」


 彼が歩き出すと、ちゃぶ台と湯のみが2人分いつのまにか用意されていた。


「マジックみたい」

「ふふふ、この空間では私の思いのままよ」


 テイルはドヤ顔をかましている。

 俺はクスリと笑い、ちゃぶ台の前へ座った。



 その後は、俺の愚痴だったり、テイルの担当している世界の話や、同じような立場の人物の話だったり色々話した。


 ……あぁ、友達と話すってこんな感じなんだな。経験した事ないくらい楽しい。

 もし生きているうちに友達ができていれば、少しは違った人生を送れていたのかな……。


「俺……大人なのに子供みたいな事考えてる」

「……おと、大人……?」


 俺の呟きにテイルがピクリと反応する。


「え、だって1回目と2回目の人生を合わせたら、20歳くらいになるだろ?」

「……君が大人だと思うのなら、何も言わんよ」


  ……何に疑問を持ってるのか分からないけど、まぁいいか。 


「よし、では君が行ってしまう前に、その世界について軽く説明をしておこう」

「分かった」

「その世界の環境は地球と酷似していて、名を『ホーロ・アズ・ギミンズ』と言う。人々の文明のレベルは中世ヨーロッパと同等ほどだな」


 ホーロ・アズ・ギミンズ……なんか、かっこいいな。きっとその星のことをそう呼ぶんだろうな。それに、ここまでは異世界のイメージ通りだ。


「おそらく、1番大きな違いはこの世界には魔術、魔法、スキルが存在することだな。どれも地球には存在しなかったものだ」

「そうだな」

「そして、個人の能力は“ステータスウインドウ”で確認できる」


 ステータス……たしかに、読んできたラノベではそう言うものがあったが……実際にあるのなると、なんというか……。


「なんだかその世界、ゲームみたいだな」

「む……」


 軽い気持ちで言ったのだが、テイルはなにやら眉をひそめてしまった。


「あ……ごめん。失礼だったか?」

「……いや、すまないな。気にしなくていい」


 テイルはそう言うと、表情をすぐに笑顔に戻した。

 それに対して若干の疑問を抱くも、別の話題が出たのでそれに集中する事にした。



 どれくらい話していたのか分からない。テイルが覗き込むように、白い床を見つめた。


「うむ、体の生成が終わったようだ。名残惜しいが、これからその体へ君を移す作業に入ろう」

「そっか……いや、ありがとう。忙しいのに俺の相手してくれて。楽しかった」

「元々、私が悪いのだがら気にするな。それに私も数百年ぶりにこんなに喋って楽しかったぞ」

「数百年って……テイルは何歳なの?」

「ふふふ、少なくとも地球より歳上だぞ?」

「えぇー……」


 そんな会話をしているうちに体が軽くなり始めた。心なしか、薄くなっている気もする。


 それが、彼と別れる事を何となく理解させた。


「……ねぇ、テイル。また会えるよな?」

「もちろんだとも。すぐにとはいかないが、いずれ、必ずまた会うと約束しよう。なにせ、君と私は“友達”なんだからな」


 その言葉で再び、涙が溢れた。そして体が浮き始める。


「それに、君は“特別”だからな」


 テイルはそう言いながら立ち上がり、こちらに歩み寄って来た。


「そうそう、君が地に降りたら、ステータスに君の経験を元にしたスキルが表示されるぞ。何かいいスキルがあることを祈っている」

「うん……ありがとう」


 俺の経験が元のスキルか……どんなのがくるか楽しみだ。


「さて、では最後に君に名を授けよう。記憶を残していても辛い過去を断ち切る、という意味でな」

「……うん。どんな名前をつけてくれるんだ?」


 神的存在から名付けとか、贅沢なものだ。


「君の名は『カイト』だ。我々の言葉で“幸せ”……まぁ色々な言い方があるが、そんなところだ」

「“幸せ”……最後に泣かせに来たね」


 もう泣いてるけど。


「ふふ、泣かせてやったのならば、してやったりだ」


 体がさらに軽くなり、薄くなっていく。もう時間がないことが、なんとなく分かった。


「君がこれから送る人生に、多くの“幸せ”があることを祈っているぞ」

「……ありがとう。それじゃあさよう……ううん、またね」

「あぁ、またな」


テイルが手を振ったのが見え、それを最後に視界は光に包まれた。

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