2回転生したら人恐怖症になったけど、新しい家族と幸せになります!

ゴウタ

新しい世界で編

第1話 2回死んだんだけど


 ガタンッ


 強い衝撃と痛みで目が覚めた。


 ……ここはどこだ?


 あたりを見渡すとぼろぼろな布に身を包んだ人が、何人か座り込んでいる。

 よく見ると彼らの手足には枷かせが付いていた。


 そして、その枷かせが自分にも付いていることに気づく。


 見上げると小さな鉄格子の向こう側に、2頭の馬とムチを持った男がいた。

 ここまで認識して自分の置かれている状況を思い出す。



 あ、そうだ……俺、転生して奴隷になったんだ。



 前世はろくでもないものだった。

 幼少期に親は離婚。姉は母へ、俺は暴力と酒しか脳に無い父に引き取られた。その後の生活は……言うまでもないだろう。

 高校へはいかせてもらえず、中学を卒業した日に家から追い出された。


 なんとかして生きようともがいたが、体中アザと傷だらけのボロボロの子供なんて、誰も助けようとしなかった。



 そして、15歳の春。

 人目につかない河川敷で、俺は衰弱死した。




 次に目が覚めたのは、暗い森の中だった。

 その時の俺は、人生で1番驚いた。体が別のものへとなっていたからだ。


 最初はあの世かと思ったが、とある老夫婦に拾われた事で、女の子に転生した事を知った。


 最初こそ食事などを与えてもらったものの、すぐに奴隷商へと売り飛ばされしまった。もう数年は奴隷として生きている。


 そして現在に至る。


 馬車から降ろされ、大きな荷物を乗せられる。今日はいつにも増して体中が痛い。

 俺の体の大きさに比例しない荷物に、押し潰されそうだ……。

 石につまずいて転んでしまった。

 起き上がれずにいると、男が何か怒鳴っている事に気がついた。なぜか、耳が聞こえない。


 ……あれ? 何でこの人剣持ってんだ? 剣先が俺に向いて……。

 今俺...風呂に入ってたっけ? なんか……あったかい……。


 体に力が入らない。

 背へ目をやると、そこには剣が何かに刺さって立っていた。


 この剣、何に刺さってるんだ……ぁ……寒……。



 ……今度の死に方はあっけなかったな。


意識がはっきりした時、俺はまた死んだ事をすぐに理解した。


 死ぬのは2回目だからね。慣れたもんよ。


 見渡すとそこは真っ白い空間だった。

 地平線も空も凹凸も見えない、真っ白い空間だ。


 今度は転生してないな。ちゃんと死ねたようだ。となるとここはあの世だろうか?天国ではなさそうだ。地獄……でもなさそうな気がする。


「……」


 不思議な気分だ。


「よかった! ちゃんと保護できたな」


 すると、突然後ろから声が聞こえた。振り向くとそこには、男性が1人立っている。


 白い髪と短い髭を生やし、不思議な格好をしている。見た感じでは30歳前後程だろうか。

 すると突然男性が、目にも留まらぬ速さで土下座の体制をとり……、


「本当に申し訳なかった!!!!!!」


 謝罪をした。


「っ!?」


 ……え?何で謝ってんの? この人。俺なんかした?


「ハッ! そうだな。まずは順を追って説明しなければなんのことか分からぬよな」


 ぺ、ペースが……


 俺を置き去りにして、男性は自己紹介を始めた。


「私はテイルという者だ。生命の循環を担当している者……ふむ、君の感覚に合わせると神様のようなものだ」

「はぁ、どうも……」


 はい? 神様? 生命の循環? 何を言ってるんだこの人は?

 でも考えてみたら、俺は確かに死んだし、ここは見るからに普通の場所ではないし、この人も急に現れたし……。本当に神様でもおかしくはない?


 はぁあ!? なんで神様が目の前にいんの!? ていうか、なんで謝ってんの!?


「あ、あの……何故神様が謝るんですか?」


 本当は声を大にして聞きたいが、がそれを抑え静かに質問する。


「あぁ、実はだな……その……」


 なんだ? そんなに言いづらいことなのか?


 俺は耳に全神経を集中させた。


「私は君を、“落っことしてしまった”んだ!」


 いや分からん。なんだよ、落っことしたって……。


「あの、落っことした、とは?」

「……先程言ったように生命の循環、“死した者の次の生の能力を決め、送り出す“というのが私の役割なのだ。だが、君の魂へ正しい処理をする前に、うっかり別の生へと落としてしまってな……それも大罪を犯した者が送るはずだった生へとな」


 なるほど……そんなことがあったのか。

 それが本当だとすれば記憶を持ったまま、2度目の人生を送った説明がつく。


 神様はそこまで説明すると、再び目にも留まらぬ速さで土下座の体勢をとる。


「君が辛い思いをしたのは全て私の責任だ! 本当に申し訳なかった!!」

「……」


 俺は……。


 他人のミスで人生をめちゃくちゃにされたという理不尽。普通なら到底許せものではないだろう。

 だが、不思議と怒りは感じなかった。


「……大丈夫です。怒ってなんていません」


 俺の答えが予想外だったのか、神様はぽかんとした。


「ほ、本当にか? 怒ってないのか?」

「ええ……今更、気にする事じゃないですし」


 他人に自分の人生をめちゃくちゃにされるだなんて、1度目の人生でもう慣れたからな。


 俺は笑顔を見せながらそう答えるが、神様は妙に不安がっていた。

 理由を尋ねると、過去にも同じようなミスをしたことがあると言う。


 結構おっちょこちょいなんだな。この神様は。


 いや、それよりもその時の人は信じられないくらい神様を罵倒したらしい。 

 そんな図太い精神の人いるんだな。正直そっちの方が驚いた。


「ありがとう、許してくれて……またあんなに罵倒されたら、どうしようかと思っていた……」

「は、はぁ……」


 完全にトラウマになってる。

 苦笑いを浮かべながら俺は神様に質問を投げかけた。


「……この後は、どうなるんですか?」


 今後の俺はどうなるのか。記憶を消されて新たな生に、といったところだろうか。


「あぁ、君には新たな生を送ってもらう。当然これまで生とは、比べ物にならない幸せなものを送ってもらいたいと思っている」


 やっぱりそうか。まぁ自然な流れだよな。


「そこで提案なのだが、今までの記憶を持ったまま新たな生を受けてみてはどうだろうか?」


 え!? ……それは予想外な提案だな。


「記憶を持ったまま、ですか?」

「あぁ、君の本来の次の生は地球とは別の世界で送るはずでな。とある貴族の子として生まれ、愛されて幸せに暮らす、というものだったのだ」


 それが俺の送るはずだった人生なのか。


「だが、新たな生へ送るとなれば、同じ魂でも記憶が消されるのももちろん、人格まで変わってしまう」


 まぁ、普通はそうだよな。


 すると、彼の表情が笑顔になる。


「だから、私は考えたのだ。親の愛を知らぬ“今の君”ならばそのような愛を受けられれば、より幸せと感じられるのではと思ってな」


 なるほど。一理ある。


 彼が言うに、おまけで何か好きな能力を1つ授けてくれるという。


 ここまでの高待遇、なかなかどころか普通ならあり得ないだろう。だが...俺は神様と逆の考えだった。


「すみませんが……それを自分で決めさせてもらうのはダメですか?」

「自分でか? ……どのような生を望む?」


 そう聞かれ、頭に思い浮かんだ理想の人生は1つだ。


「人の寄り付かないような森の奥で、ひっそりと1人で自給自足の生活をする事です」


 それを聞いた神様は少し、難しそうな表情をした。


「ふむ……」


 やっぱり難しいだろうか……だが、彼の言う“今の俺”は、人との関わりに正直疲れを感じている。

 以前から人と関わらずに暮らすのを夢見てきたのだ。ここで引き下がるわけにはいかない。


「良かろう。“今の君”がそれを望むのならな」


 俺の申し出はあっさり認められ、拍子抜けしてしまう。


 なんだよ、身構えて損した。


「しかし、本当にそれで良いのか?」

「……正直人との関わりに疲れました」

「……そうか、分かった。では君の望む生を詳しく聞こう」


 その後は俺の望む生について話し合った。


 1人で行動できる最低年齢で森に降り立つ事。

 生活のしやすく、水辺が近くにある事。

 古家でもいいから住める一軒家がある事。

 サバイバル生活に慣れるまで飢えたりしないよう、保存食を1週間分持っておく事などだ。


「……こんなところです」

「うむ。了解した」


 ふぅ、こんなに喋ったのはいつぶりだろう?奴隷時代は喋るのも許されなかったからな。少し疲れた。


「む、そうだ。先程なにか好きな能力を授けようと言ったのは、覚えているか?」


 話し疲れた俺に神様はそう問いかけてきた。


 好きな能力……たしかに言ってたな。


「覚えています。でも別に無くても、かまいませんよ?」

「まぁそう言うな。ところで、君は“ラノベ”というのをよく読んでいたそうだな」


 ラノベか、懐かしい。読書は俺の意思で出来る数少ない事の1つだったな。

 家に入れてもらえない事が頻繁にあった、1度目の人生。唯一の楽しみは、近くにあった古本屋でラノベを読み漁る事だった。


 無一文だったが、それほど大きくない規模の古本屋だったことに加え、店員が俺の事を気持ち悪がって近づかなかった事もあり、誰にも邪魔される事なく読書出来た。


「はい。よく読んでいました」

「ラノベには異世界へ転生するというものが、多いらしいじゃないか」


 異世界転生か。俺の大好きなジャンルだったな。


「そこでだ。君がこれから新たに生を受ける世界で“スキル”と呼ばれるものを1つ授けようと思う」

「“スキル”ですか……」


 ラノベでは定番の存在だな。


「あぁ言っていなかったな。実は君がこれから行く世界は、“魔術”や“魔法”が存在するんだ」

「え!? そうなんですか!? と言うか、それって実在したんですか!?」

「存在するとも。だがな、習得するには習い、鍛錬を行わなければならない。君が望む生では誰かに習うことは出来ぬから、それの代替わりとなるような“スキル”だ」

「本当ですか!? ぜひお願いします!」


 まさか生きてるうちに(2回死んだけど)本物の魔術を使える日が来るなんて! 

 ……っていうか、そういうことはもっと早く言ってくれよ!


「うむ、決まりだな。では君に授ける“スキル”を説明しよう。君に授けるのは……」

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