第5話:初めての壁

明莉は少しずつ学校には慣れてきて、クラスは違うが友達も出来た。勉強も出来るようになってきて、自分から自発的に発言が出来るようになった。


 しかし、彼女は気がかりなことがあった。それは、彼女の参考書を入れている塾の手提げが隠されていたり、彼女のお道具箱が荒らされていたりと不可解なことが起きていた。ただ、彼女には心当たりがなく、普段から違和感はなかった。


 ある日、休憩時間に隣の教室に行ったときに自分の教室から「何やっているの?」と担任の先生が注意している声が聞こえた。その声を聞いて彼女が友達と教室に駆けつけるとクラスのリーダーが彼女のお道具箱を壊していたのだ。その光景を見た瞬間彼女は血の気が引いてしまったのか、廊下に倒れてしまった。


 少しして彼女は意識が戻ったが、さっき見た光景が頭から離れなかった。そして、最初は「仲良くして欲しいと思っている」という解釈をしていたが、「これはなんだろう?」という疑問が浮かんできた。


 その日、家に帰ってお姉ちゃんやお母さんに聞いてみた。すると、お母さんから「そんなことされてなんとも思わないの?」とお姉ちゃん達からは「あんたは気が優しいからそういうことされる」とそれぞれから厳しい言葉をかけられた。みんなの話を聞いて彼女はいじめられているという事だと知った。そして、翌日からいじめが更にエスカレートしていった。朝、学校に行くと教室の前で数人の女の子が待っていて、「今度のテストで最下位を取らないと明莉ちゃんのことを仲間外れにする」と脅されたのだ。実は彼女がクラスで上位に入ってきていることが気に食わない一部の女子が企てたのだろう。


そして、彼女をテストが受けられないようにプリントや定規を含めた必要なものを隠してあたふたする姿を面白がっていたことで先生もその子達に注意せざるを得なかった。しかし、担任の先生はどう彼女たちに注意するべきなのか悩んでいた。というのは、いじめていた子供の中にこの地区では名前の知らない人はいない有名人の祖父と叔父、区議会議員として活動している叔母を持つ子供が含まれていた。


 仮にそのような子供が学校でいじめをしているということが周囲に知れたときに大変な問題になるということは目に見えていた。そのうえ、担任の先生はまだ教員になって5年目だったこともあり、下手な対応をして学校の名前に傷を付けてはいけないという気持ちが強くなっていた。


 そして、明莉にはこの問題を何とか解決しないといけないという気持ちが芽生えていた。しかし、相手は彼女1人では荷が重すぎるうえ、何かあったとしても闇に葬られてしまうのではないか?という感情も頭の片隅に渦巻いていた。それは両親にも同じような気持ちが渦巻いていたことは間違いなかった。というのは、彼女が両親に打ち明けたときに「なんでそんな大事なことを言わなかったの?」と言われていた。そして、両親は彼女の性格が他の姉妹とは違い、引っ込み思案で自分の意思は主張するのが苦手だった。


 彼女は幼少期から人と対峙することが苦手で、いつもお母さんやお姉ちゃんの後ろに隠れていた。そして、親戚が集まっても1人で遊んでいるような子供だった。そんな彼女がやりたいと思って始めたこともなかったため、両親がさまざまな習い事を彼女に課していた。彼女は面白いと思ったのか、習い事は休まずに通っていた。しかし、これは彼女が両親に怒られたくないという気持ちから無理をしてでも通っていたのだ。


彼女が経験していたことは今まで姉たちも経験したことはないため、最初は戸惑いしかなかった。

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