第2話:初恋の味

明莉はこども園に入園するまで一度も父親以外の男性と過ごすことはなかった。彼女の家族構成が父親以外みんな同性だったこともあり、同性との接し方は分かっても異性との接し方は分からない。幼少期は家で遊んでいることが多かったため、幼馴染みが近くに住んでいることは小学校に入学するまで知らなかったくらいだ。


 彼女の家族は当時33歳だった父親、30歳だった母親、小学4年生の汐莉、小学1年生の優莉、保育園の年長だった茉莉、保育園の年少だった明莉の6人家族だった。


 父親はトップセールスマンで母親は大手商社の事務長を務めるほどのキャリアウーマンだった。汐莉は好奇心旺盛で学校では学級委員長を務めるほど周囲から支持されていて、面倒見も良かった。優莉はかなりやんちゃで同級生の男の子と遊ぶような子だった。毎日のように泥だらけで帰ってくるため、母親が心配してしまうこともしばしばあった。茉莉も少しずつだが笑うようになっていて、前はあまり笑わない子だった彼女の成長が楽しみになってきた。そんなときに生まれてきたのが明莉だった。父親は冗談交じりに「いつになったらパパに仲間が出来るの?」とぼやいていた。


 確かに、娘4人が大きくなったときに寂しい思いをしないためにも息子が一人いて欲しいところだ。ただ、毎回頑張っても男の子は生まれてこなかった。


そこで、また少し経ったら頑張ってみようということになったのだった。


 明莉が2歳になり、近くにあるこども園に入園が決まったときのことだった。それまで、父親以外の異性と言ってもたまに会う程度のお兄ちゃんしかいないのだ。


 そのため、同い年の男の子と一緒に過ごすことが新鮮だった。ただ、慣れないことの連続で毎日困惑していたのは否めない。


 時には肩をトントンと叩かれてびっくりすること、男の子と遊んでいて困惑したこともあった。そんな彼女が初めて恋をしたのは幼稚部の年長さんの時だった。彼女が通っているこども園は保育部・幼稚部で分かれていて、幼稚部は近隣の保育園から編入する形で入園してくる子が多い。彼女はその中にいた裕樹君という周りの子よりも頭1つ大きい男の子と仲良くなった。しかし、彼女はこの時他にも彼のことが好きなライバルがいることはまだ知らなかった。


 そして、時期が進みプール遊びの季節になった。彼女は今までプールに行ったことがなかったため、プールと聞いて何も思っていなかった。


 しかし、実際に行ってみるとびっくりするような光景が広がっていた。


 それは、みんなすごく派手な水着を持ってきたのだった。そして、裕樹君が持ってきたのはすごく派手なデザインの水着だったことで他の女子が群がってしまったのだ。その時、明莉はその輪の中に入ることが出来なかった。それは、恥ずかしいというのもあるが、1番大きいのは彼に嫌われたくないと思ったのだった。


 彼女はこの時初恋というよりも友達に近い感覚だった。でも、彼と出会ってから毎日登園することが楽しくなっていた。


 そして、夏が終わった頃に突然裕樹君が違う幼稚園に移ることになった。理由は両親の転勤だった。それを知って、裕樹君に最後の勇気を振り絞って話してみた。すると、「今の家はこっちのみんなと会えるようになったらまた住む予定だから。」と話してくれて安心した。というのは、彼が彼女の中では初めて異性として接してくれて、いつも優しくしてくれていた男の子だからだ。


 そして、彼が関東から関西に出発する日に園の友達と共にお見送りをした。


 私の初恋はいったいどうなってしまうのだろうと不安になった時期もあったが、彼と過ごした日々がこれからの人生でプラスになると信じてこれから歩んでいこうと思った。

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