初恋は雨のように

NOTTI

第1話:心の傷

 明莉は社会人になり、毎日仕事に追われながら働いていた。そして、何より嬉しかったのは自分に彼氏が出来たこと。


 その彼氏は3歳年上の外資系の営業マンで、友人との合コンで出会った。その時の第1印象は「すごくイケメンだな!」だった。確かに、後ろ姿はすらっとしていて顔立ちは人気俳優さながらだったからだ。彼女は彼と付き合いたいと思っていたが、躊躇していた。実は彼女は恋愛に対して良い思い出がなく、これまでも付き合っていた男性と音信不通になったり、向こうから別れを切り出されたりしたため、男性を異性としてみられなくなった。


 しかし、彼といるとその気持ちはどこかに飛んで行っていた。だからこそ、彼女は過去の殻を打ち破るかのごとく彼に猛アタックをしたのだった。すると、彼は彼女を見ながら色々な話を始めた。もちろん、彼には彼女こそいなかったが、どこか慣れている感じがして安心出来たのだった。


 ただ、明莉はどこか信用できないような感じがまだ残っていた。実は前の彼氏も友達感覚で付き合わされていて、最終的には女のとして見られないと言われたことで関係解消というどこか歯がゆい終わり方が続いていた。今回も似たような感じだが、前の彼氏とは対応の仕方が少し違っていて、もっと先延ばしが出来るかもしれないと思っていたのだった。しかし、現実はそんなに甘くなかった。飲み始めて少し酔いが回ってきた明莉は無意識のうちに彼に寄りかかってしまった。もちろん、彼に何かして欲しくてそうした訳ではなく、自然の流れでそうなったのだ。


 この時、他の女友達はドン引きしていて、今まで見たことがない明莉の一面を見たようだった。そして、合コンがお開きになり、明莉は1人では帰れないかもしれないということで友達が途中まで送ってくれることになった。別れ際、意中の彼氏が彼女の服のポケットに何かを入れていた。そして、彼女のマンションに着き、ベッドに寝かせたあとで部屋の合鍵を使って自分のマンションに帰っていった。


 翌日、彼女が起きると少し恐くなった。なぜなら、最後の記憶は合コン会場の居酒屋で止まっていたため、どうやって家に帰ってきたのか覚えていなかった。そして、服も昨日着て行った服だったため頭の中が混乱していた。


 バッグに入れていたスマホを見ると「あかりん起きた?」という友人からのメッセージが入っていた。そのメッセージを見てやっと状況が理解できた。明莉はそのメッセージに対して「昨日は送ってくれてありがとう!今起きたよ!」と返信した。


 その日は休みだったため、服を部屋着に着替えて、昨日着ていた服を洗濯しようとポケットに手を入れて中身を確かめていたところ身に覚えのない紙が入っていた。そこには「もしも、仲良くしてくれるなら連絡ください」と電話番号とメッセージアプリのIDが書かれていた。彼女は自分の個人情報を男性に教えることに抵抗があったのだが、もしかしたら運命の人かもしれないと思い、連絡先を追加して、メッセージアプリでメッセージを送った。


 すると、数時間後に彼から連絡が来て、「連絡くれてありがとう。昨夜は大分酔っていたみたいだけど大丈夫だった?」と書いてあった。その返信に「うん。なんとか帰れた(笑)」と返してみた。その時は久しぶりに懐かしい感覚になった。なぜなら、前の彼氏と別れてから1年以上異性と連絡を取っていなかったからだ。そして、ある程度仲良くなったが、すぐにメッセージを返せなくなってしまった。


 週末が終わり、朝仕事に向かっていたが、どこかモヤモヤしていた。理由はこの前連絡先を交換したばかりの男性のことだった。彼女の中では好きな人という状態だが、向こうはどう思っているのか?またどこかで会えるのか?と期待してしまうのだ。


 彼女が住んでいるマンションから最寄り駅までは歩いて15分かかるが、彼と会ってから朝出勤するときと退勤して家に帰るときにスーツを着て歩いている人が彼に見えてしまうのだ。


 ただ、彼女はこれまでの元彼たちと過ごした日々から深入りしてはいけないのではないか?と不安になっているのも事実だった。



 彼女は初恋から失敗の連続で、恋愛することに自信が無かった。


 彼女が負った傷は一生消えることはない。ただ、今回の彼氏が最後の恋愛になるかもしれないという危機感もあった。

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