第10話 操舵室
「酸素濃度は普通だね」
「ええ。今のところ有毒ガスの
僕とジェネットは顔に防護用のマスクをかぶった状態で互いに
僕らは潜水艇の
このゴーグル付き防護マスクには空気の異常検知機能が備わっていて、酸素不足や有毒ガスの発生を検知して知らせてくれる。
カイルがこの密閉された船内で有毒ガスを散布したり、酸素濃度を低くしたりするといった
「万が一のためにと買いそろえておいてよかったよ。まさかこれを使う日が来るとは思わなかったけど」
ミランダと
僕の少ない給金ではなかなか買えない高価な品だったんだけど、前回の
「ありがとうございます。アル様。さすがに私もこれは持っていませんでしたから助かります」
そう言うジェネットの手には小さな手さげのバスケットが握られている。
その中には約10匹ほどのハムスターが息を潜めていた。
ブレイディの薬液で
ここから脱出するとき、彼女たちを見捨てていくわけにはいかないし、こうすれば連れて行きやすいからね。
ジェネットは防護マスク越しに声を潜め、そっと僕に耳打ちをした。
「ところでアル様。その
そう
ジェネットは口元に笑みを浮かべ、その目に強い光を宿して
「なるほど。それは心強いですね。では一つお願いしたいのですが、もしカイルと
そう言うとジェネットは彼女の考えを分かりやすく僕に説明してくれた。
それは彼女の新スキルを生かすためのある作戦だった。
「分かったよ。ジェネット。その通りやろう」
「ええ。お願いします。その前に
僕らは互いに
潜水艇の中は入り組んでいたけれど、僕らはそれから10分ほどで
その間、誰とも
そして固く閉ざされているものとばかり思っていた
僕とジェネットは互いに顔を見合わせながら注意深く
するとそれほど広くない
「おや? 船内の見学はもう済んだのかね? 聖女殿」
獣人の老魔術士カイルはゆったりとイスに腰をかけてこちらを見つめている。
何だ?
敵であるジェネットが目の前に現れたってのに、この余裕の態度は。
「それにしても
「コソコソと隠れているかと思いましたが、逃げられずに観念したのですか?」
そう言うとジェネットは
「あなたには色々と聞きたいことがありますが、まずはこの船を海上まで浮上させていただきます」
「さもなくばこの老いぼれを殺す、ということか。まあ、己の実力は分かっておる。高名な光の聖女殿と一戦交えたところで、この老体が骨と化すのにさほど時間はかかるまい」
カイルはまるで取り乱すことなく
敗北を覚悟しているってことか?
何か妙だな。
「ならばすぐに船を……」
「それは無理だ聖女殿。この船の浮上装備はすでに破壊した。もはや浮上能力はない」
う、
カイルの言葉に思わず動揺する僕の
「ならばなぜ、あなたはまだここに残っているのですか? あなたが脱出する方法があるということでしょう?」
当然の指摘だ。
だけどジェネットの言葉にもカイルは
「そんなものはない。元より私はこの船と運命を共にするつもりなのでな。もちろん聖女殿にあっさりと殺されてゲームオーバーになるという結末がお好みならば、その杖を存分に振るうがいい」
これにはジェネットも顔色をわずかに変えた。
「なるほど……初めからそのつもりでしたか。
「アナリン様は初めから乗船されておらぬ。今頃はしかるべき場所でしかるべきことを成されているはずだ」
「そういうことでしたか……」
そう言うとジェネットは悔しげに
くっ!
あの
王都から
せっかく追い詰めたと思ったのに……。
僕らの様子にカイルは満足げに目を細めた。
「こちらからも質問なのだが、その奇妙な妖精は何だ? 我が変身魔術をいともたやすく解除したようだが」
「優秀な私のパートナーですよ。まやかしを打ち破る光の使者です」
「光の使者ときたか。さすが神の直属の部下だな。優れた技術のバックアップは驚異的だ。やはり我らにとって一番の
神様のことも知っている。
やっぱりアナリンたちは僕らのことを調べ上げている。
この姿の僕がアルフレッドだってことはまだ気付かれていないみたいだな。
カイルは余裕の表情で頭上を指差すと、その口元にゆったりとした笑みを浮かべる。
「今ごろ海上では貴殿の仲間たちが、我が同胞の攻撃を受けて撃沈しておるだろうよ」
「いいえ。私の仲間たちはそんなにお
そう言うとジェネットは
「さて、私たちはそろそろおいとましようと思います。いつまでもここであなたと語らう時間はありませんので」
僕も彼女に
だけどカイルはこれっぽっちも顔色を変えず、事も無げに言う。
「客人をもてなさずに帰したとあってはアナリン様に
そう言うとカイルは
け、結界だ。
すぐに体に異常が感じられるようになった。
全身が重く感じられるようになったんだ。
動けないほどじゃない。
だけど走り出すのも
そしてわずかではあるが肺が圧迫され、呼吸がしにくくなっている、
こ、これは……。
「船内の圧力を少し上げさせてもらった。少し走ると息が切れるぞ。無理せずゆっくり休むがいい」
カイルの魔術だ。
おそらく彼の力があれば今すぐ圧力を最大限まで高めて僕らの体を押し
やっぱり彼を老人だからと
僕は重い体に気合いを込めて
「
杖から放出された金色の粒子が天井の
やった……と思った僕だけど、消えたのは一瞬のことで、すぐに
「ええっ?」
「ムダだ。妖精よ。我が結界は
そういうことか。
そんなに簡単にはいかないみたいだ。
「それ。もう一段階、圧力を開けてみるぞ。苦しむがいい」
そう言ってカイルが指を鳴らそうとしたその時、ジェネットが先に動いた。
「
だけど彼のいる
くっ!
やっぱり結界か。
だけどジェネットは落ち着いていた。
「なるほど。あなたはかなり腕の立つ魔術士のようですね。安心しました。全力を出すべき相手だと分かりましたので」
「なに?」
それは僕にとっての合図でもあった。
「地の底の神よ。我が求めに
するとジェネットの全身から急激に光の
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