四度目の朝・そして…
目覚めてみると、朝だった。
どこかでスマホのアラーム音が聞こえる。つまり午前六時だ。
安物の遮光カーテン越しでも、夜が明けている事が分かる。
微かに入り込んだ淡い光に浮かび上がる部屋の中は、まるで水中にいるかのように幻想的で、見慣れた自分の部屋には見えなかった。
すでにそれが四度目の朝であるせいか、不思議なほど何の感慨も湧いて来ない。もう、何を考えるのも億劫になっていた。
それでも、まるで義務であるかのように玄関を確認しに行くと、当然のように革靴が片方欠けている。
今度は、何が起こっているのだろう?
ぼんやりと考えてはみたが、最早それですらどうでもいいような気がした。新聞もテレビもネットニュースも、確認してみようとは思わなかった。
なんだか、すべての感覚が遠い。
事故も、事件も、自分自身も、分厚い膜の向こうにある物のように、現実味のない遠い物のような気がする。
特に何かの意図があるわけではないが、オレはゆるゆると立ち上がり、服を着替えて部屋から出た。
○
「なあ、B、あいつ、どうして出勤していないか知っているか?」
週明け、月曜日の朝、いつもと変わらぬ職場の状景の中で、隣のデスクに乗り出しながらAが訊いた。
「さぁな、三日酔いならぬ四日酔いってこともないだろうから、サボリじゃねぇのか?」
Bの返答は、あっけらかんとしたものである。
「それがなぁ、実は昨日から連絡を取ろうとしているんだが、全く連絡が取れないんだ。電話もメールもLINEも、既読にすらならないんだよ」
「そりゃあ、休みの日だったら、女とかの用もあるだろうし、寝過ごして、今頃出勤している最中かもしれないし、連絡が取れない理由は色々あるだろう。───何か急用なのか?」
「急用って程じゃないが───ほら、オレ達、金曜の夜にタクシーの相乗りをしただろう。あの時のあいつ、ぐだぐだに酔っ払っていたじゃないか」
「ああ、あれじゃあ電車には乗せられなかったもんな」
「それで、オレが最後に車を降りようとしたら、あいつの靴が片方落ちてたんだよ。ほら───」
「おやおや、何というか……抜けてるねぇ。デスクの下にでも置いとけよ。そのうち出て来るさ」
「まあ、それもそうだな」
コンビニのレジ袋に入れた靴を、Aはデスクの下に放り込んだ。
靴はごろんと転がり、袋から半分見えた状態で机の下に落ち着く。
そして、いつか飼い主が迎えに来てくれることを信じている忠犬のように、長い間そこに在り続けた。
目覚めてみると 睦月 葵 @Agh2014-eiY071504
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