第31話 覚醒
「皆さん、私の後ろへ!」
全身を光に包まれたアリスが、両手を前に向ける。
迫り来るは三体の武器持ちミノタウロス。そのランクはB――単独で都市を壊滅させるほどの脅威だが、不思議と今のアリスは恐怖を抱いていなかった。
「――《ライトランス》ッ!!」
アリスの両手から光の槍が放たれる。
あれほど恐ろしかったミノタウロスたちが、光に呑まれ、あっという間に消え去った。
「うぉぉ……すげぇ、すげぇぞアリス!」
目の前の光景に、レイが興奮する。
「ゆ、油断しちゃ駄目だよ、皆……! まだ、モンスターの数が多い……!」
「ハルの言う通りだよ! できるだけアタシたちの足で、地上に近づかないと!」
できるだけモンスターたちがいない場所を探し、そちらへ向かう。
動けないスメルクはレイが担いだ。
「スメルク、無事か?」
「レイか……。くそっ、お前に運ばれるとは屈辱だな……」
「へっ、無駄口を叩けるなら荒っぽく運んでも大丈夫そうだな」
レイが全力で走り出すと、スメルクは「うおっ」と小さな悲鳴を上げた。
「ア、アリス、大丈夫?」
「……はい」
ハルの心配に対し、アリスは頷く。
今のところ身体に負担も感じない。この分なら、まだ戦える。
「この力が、何なのかは分かりませんが……」
不安な気持ちを抱きつつも、アリスは同時に喜びを感じる。
身体の奥底から湧き出る温かい力を噛み締めるかのように、アリスは胸元でぎゅっと両手を握った。
「やっと……やっと、皆さんのお力になることができました……!」
新しい力に目覚めたことよりも。
ミノタウロスほどのモンスターを倒したことよりも。
仲間たちのために戦えることが、一番嬉しかった。
「アリス! オーガが二体来てる!」
「はい!」
アリスがミノタウロスを倒してから、チーム全体が落ち着きを取り戻した。
斥候のシャッハがモンスターの接近を報せると、アリスはすぐに応戦する。
――今まで、ずっと燻っていたことが功を奏した。
皆の足を引っ張らないように。優れた探索者になるために。アリスは、自身の才能のなさを呪いながらも、あらゆる術式の勉強をしてきた。
どんな属性の術式でも、どんな効果の術式でも、アリスは「役に立たないかもしれない」という不安に抗いながら、必死に勉強した。
勿論、それは――光属性の術式だって例外ではない。
「《ライトショット》ッ!」
光の散弾が放たれ、オーガたちの目を眩ませた。
その隙にアリスは前方に踊り出て、仲間たちを守る位置に立つ。
「《ライトウォール》!」
突き出されたオーガの拳に対し、アリスは光の壁を生み出す。
岩をも砕くオーガの拳は、突如現れた光の壁によって阻まれた。
確かな手応えをアリスは感じる。
頭の知識と身体の感覚が、やっと噛み合ったような感触だった。
やがて壁が消失する。直後、アリスは両手を真っ直ぐ前に向けた。
そして――強烈な光を放つ。
「《レイ・ジャベリン》――ッ!!」
光の槍が直進し、オーガの腹を貫く。
刹那、槍が破裂して周囲にいるオーガを巻き込んだ。眩い光に、傍にいた仲間たちが目を細める。
「おいおい……これ、このまま十層まで行けるんじゃないか?」
あっという間にオーガを倒してみせたアリスに、レイが呟く。
「いえ、今回は諦めて地上を目指しましょう」
アリスは冷静な様子で首を横に振った。
「ここで無茶をして、皆さんが傷ついたら……きっと私は後悔しますから」
レクトの言葉を思い出しながら、アリスは告げる。
きっと今は、無茶をするべき場面ではない。
「……だな」
「ああ。……次の実習で、より大きな成果を出せばいいだけだ」
レイは反省して頷いた。その背中に乗っているスメルクもアリスに同意を示す。
「皆! あと少しで階段が見えるよ!」
シャッハが明るい声音で言う。
もう少しで六層に戻れる。そう思ったアリスたちだが――。
「……え?」
階段の前に立ち塞がる、一際大きな巨人を見て、アリスたちは動きを止めた。
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