第25話 種明かし
「要するに、元素の使い方には適性があるということだ」
ハルとシャッハの模擬戦が終わった後。
俺は集まった生徒たちに、模擬戦の趣旨を伝えた。
「ハルは今まで元素使いを目指していたが、実際は元素流しの方に適性があった。だから、適性に合わせて元素流しの術式を教えた結果、ここまで急成長したということだ」
今回の模擬戦は、それを伝えるために行ったものだ。
生徒たちの話によると、ハルは今まで模擬戦でシャッハに勝ったことがなかったらしい。それなら十分に効果を示すことができただろう。
「げ、元素の使い方に、適性……?」
「そんなの、聞いたことがないぞ……」
生徒たちがざわめく。
「ど、どうやって適性を調べるんですか?」
レイの問いに、俺は答える。
「体内元素の動きを見れば分かる」
「体内元素の動き……? そんなの、見えるんですか?」
「特別な訓練を受ければ見えるようになる。これは探索者として活動していると、いずれ必要になる技能だ。……強力なモンスターは、肉眼では捉えきれない動きをすることも多い。そういうモンスターと戦う時は、体内元素の動きを見て次の行動を予測するんだ」
生徒たちはポカンと口を開いたまま、硬直していた。
そんな中、一人の女子生徒が元気よく挙手をする。
「教官! アタシの適性も教えて!」
シャッハがキラキラと目を輝かせて言った。
他の生徒たちも後に続き「俺も」「私も」と口々に言う。
「勿論、と言いたいところだが……その前に、皆には覚悟を決めてもらう」
真面目な声音で告げると、生徒たちも気を引き締めたのか口を閉ざした。
「実習まで残り一週間を切っている。はっきり言って、この土壇場で新しい技術を習得するのはリスクが高いだろう。付け焼き刃の技術ほど、いざという時に信用できないからな」
そう説明しながら、俺はアリスの方を見た。
アリスには一度伝えた話だ。最終的には授業をボイコットするほど嫌がられてしまったが、この話に関しては納得しているらしく、首を縦に振る。
「だから、適性を教えるなら……残り一週間で、付け焼き刃が本物の刃に変わるくらい、死に物狂いで努力してもらう。その覚悟がある者だけ、俺の前に並んでくれ」
こちらの言いたいことを理解したのか、生徒たちは神妙な面持ちで考え込んだ。
やがて、一人二人と生徒たちが俺の前に並び出す。
最終的には――全員が一列に並んだ。
「全員か。……言っておくが、昼休みも放課後も潰れるぞ」
「へっ。強くなれるなら上等だぜ」
「ああ……なにせ、この目ではっきりと効果を確かめたからな。こればかりは認めざるを得ない」
レイに続き、今まで俺に対してあたりがきつかったスメルクも頷く。
「あの……レクト教官」
その時、アリスが傍で声を掛けてきた。
「その……すみませんでした! 先日は勝手に怒ったりして。今日も、授業に出ず……」
「いや、いい。俺も言い方に問題があった」
ミーシャとの話を経て、俺も反省した。
教習所の生徒にも探索者を志す事情があるのだ。前回の自己紹介だけでその全てを理解した気になってはならない。今後は、彼らの事情をしっかり把握した上で、こちらの考えを伝えるべきだ。
「ミーシャから聞いたが……色々と、事情があるみたいだな」
「……はい」
アリスは頷いた後、そのまま顔を伏せた。
よほど切羽詰まっているのだろう。
「アリス。探索者が無茶をしてもいい条件を教えておこう」
俺は指を順番に立てて、伝えた。
「一つ、自分の命が危ない時。二つ、誰かを助ける時。そして三つ、絶対に周りを巻き込まない時だ」
「……周りを巻き込まない時、ですか?」
「そうだ。実習は一人で行うものじゃないだろう? 付け焼き刃の技術で挑んで、下手に失敗すれば自分だけでなく仲間たちも危険な目に遭うかもしれない。だから前回は許可しなかった」
そこまで説明すると、アリスは分かりやすく落ち込んだ。
改めて、自分の行いが如何に危険だったのか理解したらしい。
「それでも今回、適性を教えることにしたのは……アリス以外にも、やる気を持った生徒が多いと気づいたからだ」
そう言って俺は、一組の生徒たちを見る。
「実習に参加する生徒の全員が、死に物狂いで努力をするなら……そう悪い結果にはならないかもしれない。正直、ここまで生徒たちのモチベーションが高いとは思わなかった」
きっと、誰もが自分のために努力するわけではないのだろう。
アリスのためだ。
様子を見れば分かる。皆、アリスが困っているから、力になろうとしているのだ。
「アリスは、いい探索者になるかもな」
「そう、ですか?」
「ああ。……いい探索者は、仲間に恵まれる」
そう言うと、アリスは湧き上がる感情を噛み締めるかのように顔を綻ばせた。
まだまだアリスの課題は多いが、最も重要な素質を持っているのは間違いない。
気合十分といった様子の生徒たちを見ていると、俺自身のやる気も向上する。
俺も――彼らの気持ちに応えてやりたい。
「じゃあ、順番に適性を教えよう」
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