第24話 模擬戦
数分後。
教習所のグラウンドで、二人の女子生徒が対峙していた。
「よっしゃーーーー!」
オレンジ色の髪をポニーテールに纏めた少女、シャッハがやる気を漲らせる。
「ハルーーーっ! やるからには、本気で行くからねーーーっ!!」
「う、うん! よろしく、シャッハ!」
戦意を滾らせるシャッハを、ハルは真っ直ぐ見据えて集中していた。
これから始まるのはシャッハとハルの模擬戦だ。
二人の様子を、俺たちは少し離れた位置で見ていた。
「今まで、こういう形式で模擬戦をしたことはあるか?」
俺は傍にいる他の生徒たちに尋ねた。
「そりゃあ、まあ、ありますけど……」
レイが答える。
「なら、あの二人の戦績は?」
「確か……全てシャッハが勝っていた筈です」
スメルクが思い出しながら答える。
「ハルもそれなりに強ぇけど、状況判断があんまり得意じゃないっていうか……身体の動かし方と、術式のコントロールがちぐはぐなんだよな」
「元素使い同士の戦いになると、判断の速さが勝敗に繋がりやすい。的当てのように、落ち着いた状態での実技なら、ハルの方が優れた結果を出せるんだが……」
「逆にシャッハは実戦派だよなぁ。的当て、全然当たんねぇし」
レイとスメルクの会話を聞きながら、俺は今回の模擬戦が、狙い通りの結果を示すと確信する。
知りたかったのは、ハルに対する印象だ。
きっとこの模擬戦を経て、ハルの印象はがらりと覆ることになるだろう。
「あの……教官。この模擬戦の意図は何ですか?」
今まで黙り込んでいたアリスが、こちらを睨みながら訊いた。
「実習まで後一週間しかないんです。ここで怪我でもすれば、支障を来します」
「怪我しそうなら、その前に止める」
怪訝な様子のアリスに、俺は短く答えた。
「意図は……見れば分かる筈だ」
そう言って俺は、一歩前に出る。
「双方、位置についてくれ」
大きめの声で伝えると、シャッハとハルが頷いて所定の位置につく。
二人が集中できていることを確認した俺は、開始の合図を告げた。
「模擬戦――開始ッ!!」
戦いの火蓋が切られると同時に、シャッハが体内の元素を練り上げる。
「唸れ、アタシの元素ぉぉおおぉおぉおおぉ――ッ!!!」
シャッハが裂帛の気合を見せた。
あれは毎回言わなくちゃ駄目なんだろうか……。
「――《ストーンハンマー》ッ!」
ふわりと持ち上げられた岩が、シャッハの腕の動きに合わせてハルを頭上から叩き潰そうとする。
流石に手加減はしているようだが、それでも威力は高い。
しかしハルは一切恐れることなく、自身も術式を発動した。
「――《元素纏い》!」
どこからか現れた水流が、ハルの全身を覆う。
頭上から落下する岩を、ハルは軽やかな動きで回避した。
「なっ!?」
「ハルが、《元素纏い》!?」
ハルの様子に、レイとスメルクが驚愕する。
「ど、どういうことですか、教官? ハルは後衛……元素使いです。それを、元素流しのように戦わせるなんて……」
「まあ、見ていれば分かる」
困惑するアリスに、俺は続きを見ろと促した。
アリスは不審な目で俺を睨んでから、再び観戦に集中する。
「ハル……そんなこけおどし、アタシには効かないからね?」
「う、うん。知ってる」
シャッハの言葉に、ハルは首を縦に振る。
「だから、これは――こけおどしじゃないよ」
そう告げた次の瞬間、ハルが高速で移動した。
強く地面を蹴ったハルは、一瞬でシャッハに肉薄する。
「ぅえ……っ?」
いきなり目の前にハルが現れたことで、シャッハは思わず後退した。
「ア、《アースショット》ッ!!」
シャッハの掌から、大量の石礫が放たれる。
対し、ハルは両腕を交差して――。
「《
水流が、ハルの両腕に結集する。
元素流しの術式である《篭手装化》は、腕を集中的に強化する。放たれた礫はハルの両腕に命中したが、傷ひとつつかなかった。
「え? あれ、ちょ……嘘っ!?」
接近するハルに、シャッハは対抗する術がない。
元素使いが接近を許してしまえば、もう終わりだ。ハルは素早くシャッハに近づき、その拳を突き出す。
「きゃっ!?」
シャッハが悲鳴を上げる。
ハルの拳は、シャッハの鼻先で止まっていた。
「そこまで」
勝敗が決したところで、俺は模擬戦の終了を告げる。
「わ、私の、勝ちだね」
「……うそーん」
嬉しそうに笑うハルに、シャッハは頬を引き攣らせる。
観戦している他の生徒たちは、唖然としていた。
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