第23話 頼れる人
レクトがハルたちに授業を行っている頃。
アリスたちは、探索者協会に足を運んでいた。
「で、弟子入り、ですか……?」
協会の受付嬢が、アリスたちの要望を聞いて困惑する。
「はい。現役の探索者であるなら、どなたでもいいんです。どうか次の実習まで、私たちに探索者としての戦い方を教えていただけないでしょうか?」
深々と頭を下げるアリスに、受付嬢は難しい顔をした。
「申し訳ございませんが、協会にそのような制度はありませんし……見習いが経験を積むには、やはり教習所が一番だと思います」
「その教習所に、頼れる人がいないんです」
深刻な面持ちでアリスは告げる。
しかし受付嬢は、首を縦に振らなかった。
「事情はよく分かりませんが……難しいものは難しいとしか言いようがありません。妙な前例を作るわけにもいきませんし……申し訳ございませんが、今回はお力になれそうにありません」
「……そうですか」
アリスは落ち込んだ様子でカウンターから離れた。
近くで話を聞いていた他の生徒たちと共に、協会を出る。
「やっぱり、駄目か……」
「まあ、以前も似たようなことをしたしな。それで無理だったんだから、今回も難しいのは当然か」
レイとスメルクが溜息交じりに言う。
以前この協会に来た時も、アリスたちは現役の探索者に弟子入りできないか検討した。しかし結果は失敗。探索者たちはとりつく島もなかった。
「その……すみません。私のせいで、皆さんまで授業をボイコットすることになってしまって……」
アリスは目の前にいる生徒たちに深々と頭を下げて謝罪した。
ほぼクラスメイトの全員が、自分のボイコットに付き合ってくれたのだ。しかし思うように事は進まず、アリスの胸中は罪悪感で溢れそうだった。
「皆さんは、授業に戻っても構いません。……私はもう少し粘ってみます」
実習も近い。本来なら少しでも鍛錬に時間を費やすべき期間だ。
しかし、クラスメイトたちはアリスの傍から離れず、
「ちょっと、アリス~?」
シャッハが意地悪な笑みを浮かべて、アリスの両頬を指で摘まんだ。
「ひゃ、ひゃっはさん? らにするんれすか!?」
「あのねぇ~。もう何度も言ってるけど、アタシたちは好きでアリスの傍にいるのっ! 勿論、アリスが公爵家だからとか、そーゆーのも関係なしでね! 皆、アリスの直向きな性格に惹かれたから、力になりたいと思っているわけ! 分かった!?」
「ひゃ、ひゃい……」
理解したならよし! とシャッハはアリスの頬をはなした。
「しかし、アリスが面と向かって誰かと喧嘩するとは思わなかったな。今までも何度か授業をボイコットすることはあったが、アリスが切っ掛けとなったのは初めてじゃないか?」
「うっ……そ、そうかもしれません」
アリスが気まずそうに視線を下げる。
「でも、ハルは行っちゃったな」
レイが呟くような声音で言った。
「ボイコットを推奨するわけにはいかないからな。本人が行きたいと言うなら、認めるべきだろう」
「ハル、この前の授業で助けられたことについて、改めてお礼がしたいって言ってたし、その気持ちも分かるよね」
スメルクとシャッハが、ハルの行動に理解を示す。
どちらかと言えば悪い行動をしているのは自分たちの方だ。誰もハルの行動を咎めることはできない。
「ボイコットを続けるかどうかはともかく、俺たちも教習所に戻った方がいいな。協会を頼れないなら、教習所の方が訓練に使える道具がある分まだマシだ」
「……そうですね。一度、戻りましょう」
スメルクの意見にアリスは同意を示す。
生徒たちはそのまま固まって教習所の方へ向かった。
今はまだ授業中だ。他のクラスの生徒たちを邪魔しないよう、アリスたちは静かに教習所の敷地に入り、グラウンドを横切って校舎へ向かおうとした。
「あっ、アリス!」
グラウンドで授業を受けていたハルが、アリスたちに気づく。
「ハルさん。レクト教官の授業を受けていたんですね」
「う、うん。でもアリス、聞いて欲しいの。レクト教官、やっぱり凄い人で――」
ハルにしては珍しく興奮した様子だった。
しかし、ハルが何かを告げるよりも前に、レクトが近づいて言葉を制止する。
「ハル。その説明は後だ」
そう言ってレクトは、アリスたちを見た。
その目はボイコットの件を咎めているようには見えず、いつも通り覇気がない淡々としたものだった。
「アリス、レイ、スメルク、シャッハ。……誰でもいいから、今からハルと模擬戦をしてくれないか?」
そんなレクトの提案に、アリスたちは目を見開いた。
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