第13話 衛兵が見た幻
教習所を出たレクトは、金糸雀の花を手に入れるためにダンジョンへ向かってきた。
目的地はC級ダンジョン『
元素にレベルの概念があるように、探索者やモンスター、ダンジョンにもランクの概念がある。
C級のダンジョンは、街が総力を挙げれば踏破できる難易度だ。ベテラン探索者が複数人いればなんとか踏破できる可能性があり、国で五指に入るような英雄が一人いれば簡単に踏破できる。
前回、潜った『渦巻く深淵』は、これよりひとつ下のD級ダンジョンであり、こちらは村落が総力を挙げれば踏破できる難易度である。ベテランが一人いれば踏破は余裕だ。
「……そう言えば、協会を追放されてからマトモに探索するのは、これが初めてになるのか」
前回は救助が目的であったため、探索とは言えない。
石畳を歩きながら、さり気なく横にある建物を見る。
探索者協会。……そこに所属していることこそが探索者の証であり、かつてはレクトも数え切れないほど通い詰めていた場所である。
探索者協会に所属していると、様々な補助が得られる。
地図の共有、ダンジョン内で入手できるアイテムの売買、救助隊の要請、道具のレンタル……この辺りが代表的だ。国家機関なだけあって羽振りも良く、現役の探索者たちの口から、協会に対する不平不満が出ることは少ない。
城壁の門を抜け、王都の外へ出る。
すると、門を守る中年の衛兵と目が合った。
「おや、もしかしてダンジョン教習所の教官かい?」
「……まぁ」
どうして分かったのだろうと思ったが、自分の襟についている徽章の存在を思い出す。
今朝、カリーナ所長に書類と一緒に渡されたものだ。これが教官の身分を表わしているのだろう。
「いやー、懐かしいな。俺も昔は教習所に通って、卒業後は探索者になったんだが、途中で挫折してな。……今はしがない門番だ」
「……門番の仕事も、大切だと思いますが」
「そう言ってくれるとありがたい。でも、やっぱり探索者ってのは一番の花型職業だからなぁ。世のため人のためにモンスターと戦い、未知と浪漫に満ちたダンジョンへ挑み続ける。……男なら誰もが憧れる職業さ」
探索者に挫折はつきものだ。ダンジョンも、モンスターも、立ち向かうには命の危険が伴う。恐怖に心が擦り切れ、疲弊が限界に達した時、探索者を辞めて他の職を探す場合も多い。
教官として、生徒に何を教えればいいのか。恐らくその答えのひとつは、生徒たちが卒業後に挫折しないよう導くことだ。少なくとも、探索者という道を選んだことに後悔して欲しくない。
「ところで、まだ授業中だろ? こんな昼間から何処に行くんだ?」
「先輩に薬草を採ってこいと頼まれたので、近くのダンジョンまで行くつもりです」
「ははっ、どこの界隈でも、先輩に頭が上がらないのは同じなんだな」
衛兵は笑って、レクトの背中を軽く叩いた。
「若い教官さんよ。未来の英雄たちのためにも、頑張ってくれよな」
「はい」
最大限、善処するつもりだ。
レクトは頷いた後、衛兵と少し距離を取る。
体内元素を練り上げ、《元素纏い》を発動。
次の瞬間、レクトは走り出し――高速でダンジョンへと向かった。
「……え?」
その様子を見ていた衛兵は、目を見開いて驚愕する。
「あ、あれ? 消え……?」
衛兵の目には、一瞬でレクトの姿が消えたようにしか見えなかった。
しかし、冷静に考える。人が一瞬で消えるわけがない。
「……疲れてるのかな、俺」
その日、衛兵は体調不良で早退した。
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ダンジョンのランクについて、ざっくり解説。
E級:新米探索者でも運が良ければ単独で踏破可能。
D級:村落が総力を挙げれば踏破可能。
C級:都市が総力を挙げれば踏破可能。
B級:国家が総力を挙げれば踏破可能。
A級:複数の国家が総力を挙げれば踏破可能。
S級:複数の国家が総力を挙げても踏破できない。基本的には「対処不可能の厄災」として隔離するしかない。
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