第10話 黄金世代
二属性の《元素纏い》を発動してみせたレイとスメルクは、得意気な笑みを浮かべる。
「へへっ」
「ふっ……流石に驚いたか?」
二人の《元素纏い》は高度なものだった。
しかし、申し訳ないが素直に褒められるものではない。
「……よし、もういいぞ。各自、《元素纏い》を解除してくれ」
その場で生徒たちの実力を把握した俺は、皆に告げる。
すると、目の前にいるレイとスメルクが目を丸くして驚いた。
「お、おい、スメルク。まさか、この教官……」
「……俺たちが何をしてみせたのか、理解できていないのか?」
流石にその誤解は解いた方が良さそうだ。
「いや、理解はしている。教習所の生徒で、二属性の《元素纏い》ができるのは驚いた。しかし……何故、そんなことが
厳密には、理解できないわけではないが……少し理解に苦しむ。
俺は今朝カリーナ所長に渡された、生徒たちの資料を見た。
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●レイ=スティルブ
【体内元素レベル】
総合:12
火:26
水:10
土:25
風:10
雷:7
光:3
闇:3
●スメルク=イーザン
【体内元素レベル】
総合:11
火:4
水:30
土:2
風:30
雷:5
光:3
闇:3
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なんとなくいた予想はしていた。
思わず、溜息を漏らす。
「体内元素レベルは、属性ごとにばらつきが生じることが多い。これはモンスターが基本的に一種類の元素しか持っていないからだ。例えば水属性のモンスターを倒せば、水属性の元素レベルが上がるだけで、他の属性のレベルは上がらない。これを繰り返すことで、
ちなみに、モンスターだけでなくダンジョンにも属性の概念がある。
まあ、その説明はしなくても、生徒たちは理解しているだろう。
「だからその気になれば、二つの属性を均等に伸ばすことも可能だが……やはり基本的には、ひとつの属性を集中的に伸ばした方が効率的だ。レイもスメルクも、意図的に二つの属性を伸ばしているみたいだが、何故そんなことをしている?」
その問いに、レイは困惑しながらも答えた。
「だ、だって……高ランクの探索者は皆、最低でも二つ以上の属性で《元素纏い》を発動してるぜ? なら俺たちだって――」
「二人はまだ、探索者じゃないだろ」
それは言葉の綾というわけではなく、実際の身分としての意味でもある。
教習所の通う生徒たちは「探索者見習い」と呼ばれている。決して探索者ではない。
「確かに、複数の属性を使いこなせば強力な術式も習得できる。しかしそれは高度な技術だ。……今は、ひとつでもいいから確実な強さを手に入れる段階だと俺は思う。ここで色んなものに手を出してしまうと、器用貧乏になってしまうぞ」
そう説明すると、先程まで黙っていたスメルクが俺を睨んだ。
「では、教官は何ができるんですか? そのやり方で、俺たちよりも高度な術式が使えると?」
「それは無理だ」
首を横に振って言う。
「俺は元素流しだが……使える術式は、《元素纏い》のみだ」
「……は?」
「体内元素が特殊でな。後天的にそういう体質になってしまったんだが……まあ、そんなわけだから、申し訳ないが俺の手で高度な術式を披露することはできない」
それを期待していたなら、素直に謝罪しよう。
そう思って軽く頭を下げると、生徒たちは明らかに俺を見下していた。
「おいおい……《元素纏い》って基礎中の基礎だぜ。そんなもん誰でも使えるっての」
「他の術式が一切使えないって、ヤバいよね? 私たちだって平均三つは使えるし……」
「んだよ、やっぱり口先だけで、実力は大したことねぇじゃん」
使える術式の数が強さに直結するわけではないが、こればかりは俺の弱みだ。
探索者なら普通、最低でも五つの術式は使用できる。これに関しては俺の方が珍しいため、生徒たちが動揺するのも無理はない。
「次は、元素使いの生徒たちだ。なんでもいいから術式を披露してくれ」
取り敢えず話を先へ進める。
元素流しには、レイとスメルクがいた。対し、元素使いにはアリス、シャッハ、ハルなどがいる。自己紹介の時に気になったのはこの五人だった。
各自、生徒たちは好きな術式を使用する。
炎の槍を放つ《ファイアランス》や、水の塊を撃ち出す《ウォーターボール》など、どれも見慣れた術式ではあるが、練度が高い。
「……黄金世代か」
思わず、呟く。
できのいい生徒ばかりだな、と思っていると……術式の発動に手間取っている生徒を見つけた。
アリスだ。
「アリスは元素の操作が苦手なのか?」
「は、はい。……そうなんです」
落ち込んだ様子でアリスは首肯した。
どうにか術式を発動しようとするアリスを、俺は注視する。
――何か、変な感じだな。
高位の探索者になれば、相手の体内元素の動きを読み取ることができる。
その技術を活用してアリスの元素を覗いてみると……不思議な感じがした。うまく形容できない。初めて見た感覚だ。
「うおおぉおおぉおおぉおおおおぉお――ッッ!」
その時、背後から威勢の良い叫び声が聞こえる。
振り返れば、シャッハが裂帛の気合を込めて術式を発動していた。
「唸れ、アタシの元素ぉぉおぉおおぉお――ッ!!」
シャッハの目の前にある地面が、ゆっくりと浮かび上がる。
その巨大な土塊は、元素の力で頑強にコーティングされた岩と化した。
「なんてパワフルな……」
大岩がみるみる持ち上がっていく光景を目の当たりにした俺は、手元の資料に目を通した。
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●シャッハ=フォワード
【属性レベル】
総合:12
火:19
水:5
土:41
風:6
雷:7
光:3
闇:3
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シャッハは土の元素レベルが高いようだ。
出力だけなら、既に探索者として十分活躍できるほどである。
「教官! 見てこれ! 凄いでしょ、アタシ!?」
「ああ、凄い。しかし危険でもあるから、すぐに下ろしてくれ」
「えー!! 折角、持ち上げたのに~!!」
目立ちたがり屋な性格だ。
しかしその反面、後先を見ない性格でもあるかもしれない。
「くそ、俺らもシャッハに負けてられねぇぞ!」
「目に物みせてやれ――!」
他の生徒たちがシャッハに対抗意識を燃やす。
その時、遠くにいる男子生徒が、風属性の元素を掌に集めているのを見て――俺は叫んだ。
「――よせッ!!」
すぐに叫んだが、少し遅かった。
男子生徒の掌に収束した元素が暴発する。高度な術式を試したかったのだろうが、元素の制御に失敗してしまった。
風が爆発し、辺りに爆風が放たれた。
生徒たちが悲鳴を上げる中、シャッハも風に押されて尻餅をつく。
「きゃっ!?」
一瞬、シャッハの意識が乱れたことで、彼女が発動していた術式の制御も乱れた。
持ち上げられていた大きな岩が、ゆっくりと落下する。
「ぇ――?」
岩の真下にいた少女ハルが、小さく驚きの声を漏らした。
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