第9話 初めての授業
午前中、最後の授業が始まる。
一組の生徒たちは運動着に着替えてグラウンドに出た後、俺の前で整列した。
「えー……それじゃあ、実技の授業を始める」
四限目、実技の授業。
教官として雇われた俺にとっては、これが初の授業だ。就任初日ということもあり、今日の担当はこの授業のみである。
「取り敢えず、最初は基礎的なところから教えよう」
「教官。基礎なら既に学んでいます。俺たちがこの授業で教えて欲しいのは、探索に活きる実践的な技です」
語気鋭く、そう発言したのはスメルクだった。
エラさんは「生徒たちは皆真面目」と言っていたが、これを真面目と捉えるべきか、謙虚さが足りないと捉えるべきかは微妙なところである。
「まあまあ。まずは最低限の知識を持っているか、確認させてくれ」
何人かの生徒が明らかに唇を尖らせたが、今は生徒たちがどの程度の知識と実力を持っているのか、できるだけ細かく知っておきたい。
「前にいる生徒から順に答えてくれ。……まず、ダンジョンとは何だ?」
「モンスターの巣です。一般的には巨大な地下空間となっていますが、塔型や神殿型など、様々な構造があります」
一人目の生徒が答える。
「ではモンスターとは?」
「ダンジョン内で発生する元素生物です。外に出て人を襲うこともあります。また、モンスターの強さはEランクからSランクまでの六段階で分類されています」
二人目の生徒が答える。
これは基礎中の基礎だ。流石にこのくらいは答えられるか。
「じゃあ、元素について説明してくれ」
その質問に答えるのは、引っ込み思案な少女ハルだった。
「げ、元素とは、この世界に存在するエネルギーの一種で、ダンジョンやモンスターを形作るものとも言われています。属性は火、水、土、風、雷、光、闇の七種類あり、人間もこの力を使うことができます」
「そうだ」
頷くと、ハルはほっとした様子を見せる。
「人間もモンスターと同じように、体内に元素を蓄えてそれを使用することができる。……蓄えられる元素の最大値は、体内元素レベルという言葉で表わされ、主にモンスターを倒すことで伸ばすことが可能だ」
人間がモンスターを倒せば、そのモンスターが持つ元素を体内に吸収できる。その際、最大値も上昇するのだ。
弱いモンスターは抱えている元素も少ないので、倒したところで微々たる成長しかしない。逆に言えば、強いモンスターを倒せばレベルも一気に上げることができる。但しその場合は命を失うリスクがつきものだ。
「体内元素レベルは、探索者にとっては実力そのものだ。早い話、このレベルが高いほど探索者は強いし、数多くの難敵を倒した証明となる。……ちなみに、体内元素レベルを増やすには、モンスターを倒す以外にもう一つ別の手段があるが、知っているか?」
俺はハルの後ろに座る女子生徒、シャッハを見て訊いた。
「はいっ! ダンジョンを破壊することですっ!!」
その回答に俺は首を縦に振る。
「正解だ。ダンジョンの最深部にはコアと呼ばれるものがあり、これを破壊することでダンジョンの機能を止めることができる。その際、コアを破壊した者は、ダンジョン内に充満している
「でも教官! ダンジョンの破壊って、めーーーーっちゃ難しいんですよね!?」
「ああ。なにせダンジョンの最深部に辿り着くには、モンスターだけでなく、厳しい地形や環境も乗り超えなければならない。……レベル上げだけを考えるなら、普通にモンスターを倒し続けた方がシンプルでずっと楽だ」
と、ここまで説明したところで、俺は「ふむ」と顎を指で撫でた。
「……皆、思ったより知識があるな」
「このくらい普通ですよ、教官っ!!」
「そうか。……俺が教習所に通っていた頃は、こういう授業がかなり雑だったから、元素の知識なんて皆適当だったんだ。……そのせいで苦労した」
ダンジョンにコアがあることも、コアを壊せば莫大な元素が手に入ることも、全く教えてもらっていなかった。……まあ、ダンジョンのコアまで辿り着く探索者は稀だ。教習所も想定していなかったのだろう。
「そこまで勉強しているなら、これも知っていると思うが……元素の使い方は、触れたものに影響を与える直接操作と、遠くのものに影響を与える遠隔操作の二種類に大別できる。前者の使い手は
生徒たちは頻りに首を縦に振った。
そんなこと分かっているから、とっとと授業を先へ進めろと言わんばかりの様子だ。……まあ、これだけ知識があるなら問題ないだろう。
「では、ここからは実際に術式を使ってもらおう。元素流しと元素使いで分かれてくれ」
指示を出すと、丁度、生徒たちが二つのグループに分かれる。
「まずは元素流しの生徒たちの実力を見たい。各自、《元素纏い》はできるか?」
片方のグループに尋ねると、全員が頷いた。
《元素纏い》は、体内元素を鎧のように全身に纏わせる術式で、身体能力を大幅に向上できる。これは元素流しにとって最も基礎であり、なおかつ重要な術式だ。接近戦の際は常に発動している術式である。
「では、《元素纏い》を発動してみてくれ」
そう告げると、生徒たちが《元素纏い》を発動した。
全身に炎を纏わせる者もいれば、風を纏わせる者もいる。
「おい、スメルク。レクト教官の度肝を抜いてやろうぜ」
「……いいな。やってみよう」
前方にいる二人の生徒、レイとスメルクが顔を見合わせ、不敵な笑みを浮かべた。
二人も他の生徒たちに続き、体内元素を練り上げて《元素纏い》を発動する。
「せーのッ!」
「は――っ!」
直後、現れたその光景に、俺は目を見開いた。
二人が発動したのは、ただの《元素纏い》ではない。
レイは炎と土の二種類、スメルクは水と風の二種類。二人は、二種類の元素を織り交ぜた《元素纏い》を発動してみせた。
「これは……」
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