第4話 信頼を背負って
B級パーティ『蒼剣練武』の探索者たちは、脇目も振らずにダンジョンを駆け抜けていた。
「リーダー! 協会から追加の情報が届いた!」
「内容は!?」
リーダーである青髪の女性メディは、モンスターを剣で斬りながら告げた。
協会と連絡を取り合っていた男、ジミーが走りながら叫ぶ。
「救助対象が重傷を負ったみたいだ! すぐに治療しないと、助からないかもしれない!」
「なんだとっ!?」
今でも十分急いでいる。
その上で急かすということは、よほどの事態なのだろう。
(くそ……! このままでは、間に合わない……!)
メディが率いるパーティ『蒼剣練武』の強みは、着実な探索だ。
それは決して、リスクが少ない低級ダンジョンを積極的に探索するという意味ではなく、綿密な準備と冷静な判断を常とすることで、どのような過酷なダンジョンでも難なく探索してみせるということである。
今回の救助依頼もその例に漏れない。
協会は、『蒼剣練武』の探索速度に不安があると判断したが……メディたちはその対策も用意していた。
ダンジョンの探索には、
文字通り、本来なら時間をかけて進むところを、特殊な裏道を使用するなどして大幅に時間短縮を図る技だ。
「ショートカットだ! この壁を上るぞ!」
メディの指示にメンバーたちは従った。
眼前にある大きな壁。本来なら迂回して先へ進まねばならないところ、メディたちは強引に壁を上ることで先へ進む。
メディは名の知れた探索者だ。その実力も本物である。
一度の跳躍で二十メートルほど壁を駆け上がったメディは、五秒後には壁の向こう側に辿り着き、力強く剣を握る。
「ぐ……っ! 何故、こんな大量にモンスターがっ!?」
眼下に広がる光景に、メディは焦燥した。
これが最大の誤算だった。――どういうわけか、普段よりもモンスターの数が多い。ショートカットで時間を短縮しても、このモンスターたちの相手をすれば結局時間が掛かってしまう。
「リーダー! 先へ行ってください!」
その時、メンバーの一人であるアレックが告げた。
「し、しかし、そんなことをしたらお前たちが!?」
「これでも僕たちは『蒼剣練武』のメンバーです! そう簡単にやられはしません!」
そう言ってアレックは、真正面に盾を構えてモンスターの攻撃を防いだ。
「アレックの言う通りよ! ここは私たちに任せて!」
「ファナ……!」
短剣使いのファナが、前方へ駆け出してモンスターを切り刻んだ。
先へ進むための道が拓ける。
「リーダー。今回の救助対象は、公爵家の令嬢だ。俺たち平民出身の探索者にとっては得がたいコネクションとなる。少しくらい、命を賭ける価値はあるだろう」
「ジミー……ふっ、お前だけはいつも通りだな」
「こういう役回りが一人くらいいてもいいだろう」
後方支援のジミーが余裕の笑みを浮かべて言う。
その様子を見て、メディの荒ぶっていた精神が落ち着いた。
「ああ、おかげで目が覚めた。――皆になら、安心して任せられる」
メディは剣を短く持ち、小さく呼気を発した。
「――《元素纏い》」
どこからともなく現れた水流が、メディの全身に纏わり付いた。
瞬間、地面を蹴り抜き、メディは目にも留まらぬ速さで先へ進む。
モンスターの攻撃を掻い潜って、下の階へと続く階段を駆け下りた。
救助対象の居場所は六層だ。
あと三層、二層、一層――辿り着いた。
「見つけたッ!!」
壁にもたれて倒れている少女を見つけ、メディはすぐに駆けつけた。
協会に渡された情報通り、金髪で肌が白く、華奢な少女だ。教習所の生徒ということは探索者の見習いなのだろう。よくある探索者らしい格好をしているが、絹のように柔らかい髪や、きめ細か肌が育ちの良さを示している。公爵家の令嬢という情報も間違いではなさそうだ。
(マズい……早く地上まで運んで、治療しなければ……!)
既に少女は気を失っている。
見れば、脇腹辺りで大きな内出血を起こしていた。骨折どころではない。内臓が傷を負っているのかもしれない。
「――ッ!?」
背後からの重圧を感じ、メディは少女を背負って横合いに跳んだ。
直後、先程まで自分たちがいた場所に、大きな斧が振り下ろされる。
「馬鹿な……ミノタウロスだとっ!? どうしてD級のダンジョンに!?」
牛の頭に、五メートルを優に超える筋骨隆々の巨体。それがミノタウロスと呼ばれるモンスターだ。
ミノタウロスはB級のモンスターであり、本来ならこのD級ダンジョンに棲息していない筈だ。特に武器を持ったミノタウロスは強い。単独で都市を壊滅させるほどである。
「くっ、この状況では分が悪い――ッ!!」
メディはA級の探索者だ。B級のミノタウロスより実力は上だが、道中の疲労が積み重なっている上、今は少女を背負っている。
「しッ!!」
メディは素早く剣を閃かせ、牽制の一撃を入れようとするが――。
「ブモォオォオオォオォォオオォォォォォ――ッッ!!」
ミノタウロスが吠える。
その鋼の如き肉体に刃は通らず、メディの攻撃は弾かれてしまった。
瞬間、巨大な斧が横薙ぎに払われる。
メディはこれを跳躍で躱そうとしたが――間に合わない。
「が、は……っ!?」
咄嗟に剣の腹を盾代わりにしたが、刀身は折れ、衝撃を全く殺せなかった。
モンスターの急な増加。この層に出現する筈がないミノタウロスの登場。想定外に次ぐ想定外に、メディは為す術がなかった。
(こんな、ところで……私は、死ぬのか……?)
朦朧とした視界の中心に、ミノタウロスの巨体が映った。
足に傷を負ってしまった。最早、逃げることすらできない。
(すまない……私が、不甲斐ないばかりに……)
メディは隣で倒れる少女に、心の中で謝罪した。
そして、緩やかに意識が途絶えようとした、その時――。
轟音が響いた。
突如、
大量の石片がメディの眼前に降り注いだ。激しい地響きが続き、砂塵が舞う。
「お、いたいた」
メディの霞んだ視界に、見知らぬ人影が映った。
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