第56話・嫉妬と令嬢
「違います。ただ、殿下の婚礼の支度の準備は進められているようなのに、未だにお相手が公表されないので、もしかしたらオウロさまに嫁がれることになっていてわたくしとの婚約は破棄されるのでは無いかと──」
「そのようなことはありません。お兄さまは不実なことをするような御方ではありませんよ」
お兄さまを信じてあげて下さいと言ったら、リリアリアが思いがけないことを言ってきた。
「オウロさまの初恋の御方が皇妃さまでしたから、皇妃さまにそっくりな殿下にオウロさまが心奪われてしまうのでは無いかと不安になってしまいました。お許し下さい、殿下。嫉妬のあまり醜いことを申し上げました」
深々と頭を下げられて面食らう。彼女はわたしがオウロと仲が良いことに嫉妬していたのだと正直に打ち明けてきた。ここまで許婚に思われていると知ったら情の深いオウロのことだ。尚更、彼女を邪険には出来ないだろう。
「頭を上げて下さい。シャンティル公爵令嬢。そこまでお兄さまのことを思って下さって嬉しいです。好きな男性が他の女性に心を寄せていたらと思ったら不安に駆られる気持ちは分かります。どうぞ、お気になさらないで」
オウロの初恋の相手が母だったなんて知らなかったけど、シャンティル公爵令嬢はオウロのことを良く知っているものだと思う。
その気持ちが顔に表れていたのか、シャンティル公爵令嬢が言い訳するように言ってきた。
「父が宰相をしているので王宮でよくオウロさまと顔を合せる機会はありましたから」
そう言いながらシャンティル公爵令嬢は顔を真っ赤にしていた。ずっとオウロのことを思い続けていたようだ。
彼女の恋を応援したくなった。
「シャンティル公爵令嬢。わたしとお友達になって下さいませんか? お兄さまのこと色々お話ししましょう」
「是非。殿下。わたくしのことはどうぞリリアと」
「ではわたしのことはマーリーと」
この日、わたしはサフィーラ帝国でサンドラに次いで二人目の大切なお友達が出来た。
それから二年が過ぎ、わたしが待ちに待った日がやって来た。サーファリアスがやって来るのだ。彼に会える。そう思うだけで胸が高鳴る。
昨日は散々、サンドラにからかわれた。一日たりと彼のことを忘れることは無かった。時々、手紙のやり取りはしていたけれど大体が近況報告で、彼からの手紙をのぞき見たサンドラが「これが恋人に宛てた手紙? 何だか味気ないわね」と、呆れていた。
でもわたしにとっては大切な彼がくれた手紙。返事があった日は何度もその手紙を読み返しては彼の身の無事を喜んでいた。
「殿下。陛下が謁見室まで来るようにとのことです」
陛下付きの侍従からの知らせでいよいよ来た!と思う。謁見室にいるのはきっと彼だ。背後で忍び笑いをするサンドラを尻目に、他の女官を引き連れ謁見室へと向かえば上座には皇帝と皇妃、皇太子であるオウロがいて、下座には膝をつき挨拶をする彼がいた。
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