第55話・オウロの婚約者
「あなたがマーリー殿下?」
「あなたは?」
ある日、女官達と一緒に庭園を散歩していたら数人の侍女を連れた令嬢と出会った。黒髪に紫色の瞳をしたご令嬢は、皇女であるわたしに一礼すること無く見据えてきた。その態度を女官達は不服そうに見る。
年の頃は二十代半ばくらいだろうか? わたしよりも年上に思える彼女は、皇女であるわたしよりも堂々としていた。
「わたくしはシャンティル公爵の娘リリアリア。オウロ王太子殿下の許婚です」
彼女の名乗りを聞いてなるほどと思う。気位の高さが知れた。
シャンティル公爵とは、父である皇帝とは従弟にあたる御方で宰相をしている。その方の長女がリリアリア嬢だ。賢いご令嬢だと聞いていたがこうして会うのは初めてだった。
父の兄弟達は後継者争いで命を落としていた。その為、父は姉の子であるオウロを後継者に定めた時に、彼の地位を盤石なものとする為シャンティル公爵令嬢との婚約を取り結んだ。
本来なら政略などではなく心に決めた女性を妻に迎えた方がいいと思うが──と、自分は惚れた女性を妻にした父はオウロに済まなそうに言ったが、オウロは
「自分には恋愛は不向きだ。政略結婚の方がいい」と、言ってリリアリア嬢との婚約を快く受け入れていた。
「初めまして。あなたがお兄さまの許婚のリリアリアさまでしたか。よくお兄さまからお話は窺っております」
「オウロさまがわたくしのことを? どのように?」
わたしのことを良く思っていないような彼女は、オウロの名前を出した途端に食いついてきた。
「外見が綺麗なだけでは無く、勤勉で自分には勿体ないほどのよく出来たご令嬢だと言っていました」
実際には優等生過ぎて堅苦しい部分もあるが、上手く誘導していけばいい皇妃になるだろうとオウロは言っていた。その部分は言わなくても良いだろう。
「まあ、オウロさまがそのように? 他には何か言っていらして?」
「真面目で頑張り屋だとか」
オウロが自分を褒めていたと聞き、リリアリアは機嫌を良くした。オウロは彼女を真面目すぎると言っていたが、彼は風来坊的要素があるからこのようにしっかりした女性が側に付いていた方が良いのかも知れない。
「殿下はオウロさまのこと、どう思われていますの? 以前、オウロさまからは妹のように思っていると聞きましたが?」
「その通りです。兄弟のように親しくさせて頂いておりますがそれだけです」
「本当にそうですの?」
「はい」
リリアリアが疑い深く聞いてくる。訝る様子が気になった。まるでわたしとオウロの仲を疑ってでもいるようだ。
「あの……、オウロさまに嫁がれる予定とかは?」
「え? それは何ですか? 誰がそんなことを?」
リリアリアが確認するように聞いてきた。もしかしたら何か下らない噂が流れている?
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