第51話・30人もいりません


 翌朝、サンドラが青い顔をして駆けつけてきた。それとは反対にサンドラの背後からオウロが可笑しそうな顔をして現れた。


「マーリー、大丈夫?」

「災難だったな」

「お兄さま。笑っている場合では無いですわ」


 サンドラはオウロを連れているのに二人でいるときの口調になっていた。オウロはサンドラとは侍女仲間だった時のことを話しているし、仲が良いことを知っている。そのせいか咎められることは無かった。

 サンドラは昨晩非番で、そのときに起きた出来事を自分のせいだとばかりに青くなっていた。その場にいなかった事を後悔しているようだ。昨晩はたまたまサーファリアスの屋敷から連れてきていた侍女達は、誰一人当番の者がいなかった。

買収された女官はその日を狙っていたようだ。その計画的犯行に舐められていたようで頭にくる。


「おお、怖っ。さすが暴漢を容赦なく蹴りつけるだけある」

「暴漢? マーリー。暴力を振るわれたの?」

「お兄さま。誤解を招くような言い方は止して下さい」

「サンドラ。我らが姫さまは暴漢に反撃したのさ。相手は牢屋の中で酷く打ちひしがれていたそうだ」

「マーリー。反撃って? あなた本当に大丈夫なの?」

「大丈夫。わたしは何でも無かったから」

「おかげでマーリーの危機には飛び出すようになっていた影の者も驚きすぎて動けなかったそうだ」

「うそ。影の者なんてついていたの? わたしの身を守るために?」

「嘘なんて言わないさ。陛下はマーリーの身の安全を考えて十人ばかりつけている。何かあったら大変だからな」

「十人?!」


 嘘。十人もあの部屋のどこかに隠れていたというの?驚くわたしにオウロが言った。


「陛下は始め三十人つける気でいたんだ」


 三十人もいたら気になってゆっくり出来ないよ。十人でさえ多いと思うのに。


「でもマーリー。あなたの身に何も無くて良かった」

「我らが姫さまは勇敢だから影も臆したようだよ。同性だけに」


 その言葉にわたしはナーベラスの男性の象徴を強く蹴り上げたことを思い出した。その行動に影達は思わず引いたということらしい。

意味不明なサンドラは、わたしの身に何も無かったことを安心しながらも首を傾げていた。

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