第49話・ある晩のこと
目に見えない距離がもどかしい。ジェーンは毅然とした女性だ。二人の間に何か間違いが起こるとは思ってはいない。
でも──。
ジェーンは彼が過去惹かれた女性。その想いが再燃したとしても仕方ないだろう。それを自分は責める立場には無いが、共にいる二人が羨ましいのだ。
「距離が愛を育みらしいからな。それにジェーン嬢に関して心配はいらない。奴が側にいる限り間違いは起きないだろう」
「奴って? ギルバード?」
「いやぁ、まぁ。その……。とにかく心配入らないってことさ」
まんじりとしない夜を何度か過ごし、年明けに母は父と挙式を上げ正式な皇后となった。その為、わたしも皇女となる。するとにわかに周囲が煩くなってきた。
宮廷主催の夜会に参加しないわけには行かず、オウロにエスコートされて参加すると、彼が離れた瞬間に男達が群がってくるようになったのだ。
彼らはわたしがアマテルマルス国の宰相と婚約していることを知らない。その事を知るのは両親とオウロ、一部の重臣達で、あちらの国の情勢が落ち着くまでは公表しないことが決まっている。
そのせいで何も知らない独身高位貴族男性達は、皇帝の娘の婿になる可能性に掛けているようだ。
「マーリー皇女。ぜひ、わたくしと次は踊って頂けませんか?」
「皇女殿下。喉は渇きませんか?」
「殿下。あちらのバルコニーから見る夜景は美しいですよ。ご一緒に如何でしょうか?」
彼らのお誘いはさりげなく断っていたし、オウロが常に目を光らせていたから、邪な思いのある男性達からは引き離されていた。
ところがそれが気に障ったのか事件が起きた。
「殿下。お休みなさいませ」
「お休みなさい。女官長」
「何かありましたら隣の部屋におりますから声をかけて下さいね」
ある晩のこと。いつものように女官長に就寝の挨拶をしてベッドに入ってから、窓ガラスの方で物音がしたような気がした。
「誰かいるの?」
「殿下」
声をかけると何とカーテンから誰か出て来たのだ。
──もしかしてサーファリアスさま?
表だって姿を見せられなくてこんな手でわたしの部屋に? そう思ったわたしは馬鹿だった。寝台を降りて相手を確かめる為に近づき違うことに気がついた。
「あなた誰……!」
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