第45話・父親
わたし達は夜通し馬車を走らせて、数週間後にはサフィーラ帝国入りしていた。わたしは防犯上の事情で兄と同じ馬車に乗っていた。サンドラも同乗している。
馬車の中は思ったよりも広く、三人で膝を突き合わせることもなく悠々座れた。
「もうここまで来れば安心だろう。教皇の手の者をどうにか巻いたみたいだからな」
教皇様はサフィーラ皇帝の娘であるわたしと、自分の息子であるギルバードを婚姻させてアマテルマルス国を手に入れようと企んでいたようだ。
「どうして教皇はわたしを狙ったのでしょう?」
「きっとジェーン嬢がギルバードとの婚姻を破棄したせいだろう」
「彼らの婚約破棄がどうわたしと関係しているのですか? お兄さま」
「恐らくだが、教皇はルイが早死にすると思っていたんだと思う」
「……!」
「ルイは幼い頃、病弱で先がないと医者に匙を投げられていたこともあったようだから。それが逞しくなって死ぬ可能性がなくなった」
「ひょっとしてルイ陛下が亡くなれば、その従姉にあたり母君が王妹であるジェーンさまに王位が回ると思ってギルバードさまと婚約させ、王配としようとしていたと? 聖職者にあるまじき行為ですね」
移動の馬車の中でオウロと話していると、「見えてきたぞ」と、声をかけられた。
「あれが王都アルコイリスだ」
「まあ、七色のレンガの街。綺麗」
「通称、虹の街とも言われている」
王都は煉瓦の建物が立ち並んでいた。七色の煉瓦を隙間無く積み重ねて建てた家々は遠目に見ると虹が架かったように見えた。
「ご覧。中央にあるのが宮殿だ。そこに俺たちは向かっている」
その中でも天に向かって尖塔を突き出している大きな真珠色した建物が宮殿だと教えられる。
「あそこに母と皇帝陛下がいらっしゃるのですね?」
「リーリオ妃はもちろんだが、皇帝もおまえの到着に首を長くして待っている」
「わたしが今日、来ることをご存じなのですか?」
「さっきの休憩時に宮殿に向けて早馬を送った」
「いつの間に?」
オウロは驚くわたしにくすりと笑いかけてきた。
「皇帝はきっと待ちきれないだろうよ。出迎えに出て来たりしてな」
そんなに皇帝もお暇じゃないと思いますけど。と思っていたら宮殿に着くなり馬車のドアが外から開けられた。
そこにはオウロに似た、黒髪に赤い目をした美丈夫が立っていた。
「マーリーか?」
「陛下。気持ちは分かりますがマーリーが馬車から降りるまでお待ち頂けますか?」
「マーリー。おいで。父だよ」
ドアの所に両手を広げて立つ男は一目で皇帝だと知れた。オウロに顔つきが似ていたし、会ったこともないのに懐かしい気がしたのだ。皇帝はわたしをじっと見つめてオウロの言葉など耳に入ってない様子だ。
「お父さま?」
「そうだよ。マーリー」
おずおずと前に進み出ると抱き上げられていて、気がつけば馬車から降ろしてもらっていた。
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