第44話・やつのことは心配いらない
「彼女とは婚約破棄したよ。きみに求婚を申し込むのに何の弊害もないと思うけど。それに今、サーファリアスの側にいるのはジェーンだよ。ふたり仲良くやっているんじゃないかな?」
「……!」
「だから僕らも仲良くしようよ」
「結構です。それよりも単身敵地に乗り込まれて良かったのですか?」
サーファリアスの側に彼女がいると聞かされて動揺する。でも彼のことだ。そうやって揺さぶりを掛けてこちらを窺っているような気もした。意地の悪いやり方だ。わたしも彼を利用させてもらうことにした。
「ギルバード卿を取り押さえなさい」
速やかに使用人達が動いた。ギルバードは抗わなかった。こちらにされるがままになっている彼の態度に余裕すら感じられて不審に思う。
「逃げないのですか? ギルバードさま」
「どうして? 逃げてもらいたいの?」
後ろ手に縛られたギルバードは平然としていた。この態度にもしかしたらこうなることを彼は望んでいたような気すらしてくる。
「あなたは読めない人ですね」
厄介な男を手に入れた気がしてならなかった。
「マーリー。元気だったか?」
「お兄さま。お久しぶりです」
数時間後。オウロが配下の者達を連れてやって来た。オウロは床の上に後ろ手に縛られたギルバードが転がっているのを見て驚いた。
「おまえ、ギルバード? どうしてここに?」
「彼はわたしと婚姻したいと言ってこの屋敷に乗り込んできたんです」
「はああ?」
わたしはサーファリアスの婚約者。彼は教皇達とは敵同士となる。彼を教皇への人質として交渉に扱えないかと取り押さえる事にしたが迷っていた。
オウロに「どうしましょうか?」と、判断を仰ぐと「悪い。こいつと二人きりにしてくれ」と、部屋から閉め出された。しばらくして部屋に呼ばれるとギルバードの姿がなく、代わりに窓が開け放たれていた。
「お兄さま。彼は……」
「分かっている。でもあいつは俺たちの適にはなり得ない。ここに来たのは見せかけだし、教皇達に俺たちに捕らわれた口実が欲しかっただけだ」
「どういうことですか?」
それではギルバードは教皇のしている事に同意していないってこと?
「詳しいことはまだ話せない。でもギルバードの事は心配いらない」
「お兄さまはギルバードさまと随分親しいのですね? 知り合いでしたの?」
ギルバードはわたしのダンスレッスンの講師としてアンバー邸に通って来ていたが、オウロと直接会った事もなければ生誕祭でもあまり接触はなかったような気がする。
「奴とはルイを通して知った」
「もしかして彼は……」
「その先は口にしないでくれ。これは奴の為にも今は何も言えない」
ギルバードはルイ陛下の配下で、陛下の指示で動いているのかと聞こうとしたのを止められた。都合が悪いらしい。
「ではいつか話して頂けますか?」
「そのうちにな。それよりも出立する。教皇の手が回ると厄介だからな」
オウロはここに留まるのは危険だと促してきた。
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