第39話・男達の願い


「殿下のお怒りはどのようなことでも受け止めます」

「おまえに危害を加える訳にはいかない。マーリーに嫌われてしまう」


 サーファリアスは自分の取った行動がオウロに取って良く思われていないことは百も承知なのだ。その上、オウロの気が済むように、自分を煮るなり焼くなりしてくれとまで潔く言う男を嫌い抜けるはずも無い。オウロは単純明快な性格故に。


「この国の男はルイ陛下もそうだが、柔和な顔をして食えない男が多いよな」


 参ったと零すオウロにサーファリアスが聞く。


「殿下はルイ陛下とは随分と親しそうですが、どちらでお知り合いになられたのですか?」

「ルイとは付き合いはそう長くないぞ。陛下の生誕祭に参加する名目で、密かに数週間前から入国していたらそこの宿屋に奴が現れてからの付き合いだ」

「陛下が? お一人で?」

「いや。頭の緑色で女受けのする顔立ちの男を連れていたな。妙にチャラチャラした男だ。そいつをお供に俺に会いに来た。お捜しのマーリー嬢ならもうパールス伯爵家にはいないと言われたのさ。行方を知りたかったら生誕祭の前日に宮殿に来いと言われてあの通りさ」


 サーファリアスは首を傾げたが、ギルバードか。と、呟いた。オウロは後日、そのチャラ男がマーリーに優しくしてくれたご令嬢の許婚と知り目を剥いていた。


「なるほど。それで生誕祭当日、ルイ陛下に護衛として付き添えと無茶ぶりされていたのですね?」

「ああ。面白い余興が見られるぞと言われた」


 あの日、何も知らないサーファリアスは身元が知れない相手を護衛なんてとんでもないと止めようとしたが、ルイ陛下は「生誕祭の余興だよ」と撤回する気がサラサラなく、あのギルバードは「本人のさせたいようにさせれば? 今日はお誕生日なんだしさ」と、訳分からない理由で丸め込もうとしていた。

 オウロがサフィーラ国の出身で高位にある者だろうと言うことは、彼の持っていた刀を見て悟ったが、まさか皇子だとは思ってなかったので、彼がパールス伯爵らと別室に移った際、名乗りを上げたときに仰天しかけた。


「あの時は心臓が止まるかと思いました」

「その割には平然としていたじゃ無いか?」

「そう装うので内心いっぱい、いっぱいでしたよ」

「そうかな? マーリーを保護した時には父親の事とか分かっていたんじゃないのか?」

「知ってはいましたが、まさかその国の第一皇子が傭兵のような身なりをして陛下に会いに来られるなんて思いもしませんでしたしね」


 生誕祭のパーティーで着飾った皇子殿下に会うものと思っていましたから。と、サーファリアスは悪びれることもなく言った。


「相手の本音を知るならその方がてっとり早いだろう? それにしてもルイはあれで本当に十五歳か? 頭の中はやけに老成しているような気がするが? 俺のような三十歳に手が届くか届かないかと言うような男と気が合うくらいだ。あれは見た目を誤魔化しているんじゃないのか? 詐欺だろう?」

「もともとは頼りない子供だったはずなのですが……気がつけばあのようなご聡明な感じになられていました」「ご聡明ねぇ。あれは腹黒いというか、何と言うか……」


 確かにオウロの言うようにルイは大人びているが陛下の立場柄仕方ないように思っている。その先の彼の言葉に付き合う気はしなかった。


「話が逸れてしまったが貴殿はマーリーとの今後はどう考えているのだ? マーリーの最後の話は聞いていたよな?」

「はい。私は彼女の頑張りに応えたいと考えております。出来ればマーリー嬢の願い通りに──」

「皇女としてではなく彼女自身の幸せ望むか?」

「はい。叶うことあらば……」

「うむ。難しい話だが皇帝陛下に言上してみよう。俺も妹には下手に反対などして嫌われたくないからな」


 じゃあ、部屋戻るわ。そう言ってオウロは庭を出て行った。彼を見送ってサーファリアスはマーリーの部屋を見た。灯りが消えている。就寝したようだ。

 渡しそびれたショールを片手にサーファリアスは自室に戻ることにした。ところがこの後、男達の願いも空しく事情が急変することになる。


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