第38話・マーリーをどう思っている?


「宰相には感謝だな。俺の可愛い妹を救ってくれたんだ」

「はい。こんなにも良くして頂いて感謝しかありません」

「なんなら彼との婚姻を望むか?」

「おまえの立場ならそれも可能だ。おまえが願うならなんでも叶えてやる」

「お兄さま。贖罪の気持ちからですか? それならお止め下さい。そのような事は必要ありません」

「マーリー?」

「わたしは今のままで十分に幸せなのです。それにサフィーラ国の皇子であるお兄さまに命じられたのなら拒むことが出来なくなってしまいます」

「おまえはそれでいいのか?」



 サーファリアスが好きなのだろう? と、聞いてくる。サーファリアスの気持ちが誰に向いているかなんて分かっている。


「はい。それにわたしにはやりたい事があります」

「やりたい事?」


 わたしはこの屋敷に来てから恩返しを考えていたこと、その恩を返すため学んできたことを無駄にしたくないことをオウロに話した。






「そこにいるのだろう? サーファリアス」

「気がつかれていましたか?」


 初恋の人と似た容姿を持ちながらもそれに驕ることのない慎ましい娘が部屋に戻っていくのを見送った後、オウロは背後を振り返った。

 妹を部屋まで直接送り届けようと思ったが、自分達の会話を聞いていた男の心境が知りたかったのでその場に留まったのだ。


「初めから話は聞いていたな?」

「はい」


 盗み聞きしていたことをサーファリアスは認めた。彼はショールを手にしていた。きっと中庭に出るマーリーを見かけて慌てて手にしてきたのだろう。マーリーが誰といるのかこの場に来るまで気がつかなかったくらいに彼の関心はマーリーだけに向けられているのが良く分かる行動だ。


「宰相にはあの子を保護してもらって感謝している。それにはありがとうと言わざる得ないだろうな」

「……いえ。当然のことですから」


 お礼を言うにしてはオウロの表情は硬く、また受け止めるサーファリアスも慎重だった。


「俺はまどろっこしいのは苦手だ。単刀直入に問う。宰相はマーリーをどう思っている?」

「好ましいとは思っています」

「実に優等生らしいお答えだな。でもマーリーを託すにはそれだけでは駄目だ。貴殿も分かっているだろうがあの子はサフィーラ皇帝の血を引く娘だ。マーリーは聡いがパールス伯爵夫妻のせいで自己評価がだいぶ低く育ってしまった。その重要性に気がついていない」


 マーリーは大国の皇帝の血を引く娘。今までは伯爵家で隠蔽され虐待されて育ってきた。事が公になる前に密かに自国に連れ帰り皇帝と対面させようと画策していたのに、この国の宰相に先手を打たれてしまっていた。それがオウロには面白くなかった。


 先ほどマーリーからエロ爺に嫁がされようとしていてそれから庇う為の緊急手段だったと理解はしたが、その事に関して宰相は何も言わなかった。


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