第37話・母は監禁されていた?
「あの女って? まさかパールス夫人?」
「ああ。あの女はリーリオに向かって自分はあの男とは許婚の仲だった。その仲を引き裂いたのはあなただと罵った。あなたのおかげで自分は婚約破棄されてどこにも嫁げなくなった。責任を負えと言ったそうだ」
あの継母なら言いそうだ。騒動になったのが簡単に想像できた。呆れた。
「言う相手を間違えていますね」
「確かにな。でもそのおかげでリーリオはすぐに出て行く決心がつき、おまえに言った。かあさまと共に行こうと。事情を知らなかったおまえはパールス伯爵を信じていて行かないと拒んだ」
「女はさっさと出て行けとがなり立ててリーリオをたたき出したから、それまで彼女を屋敷から外に連れ出すのが困難に思われていたサフィーラの手の者達に取っては有り難かった」
屋敷の使用人達とあの女が揉めている困難に便乗してあの屋敷からリーリオを連れ出すことに成功したらしいからなとオウロは言った。
そうなるとある疑いが頭に浮かんだ。母は滅多に外出しなかった。それは記憶を無くしていて不安があったから? とも思えたが、今となっては違うような気がしてきた。
「ひょっとして母はあの屋敷に監禁されていた?」
オウロは頷いた。やはりそうだったらしい。そうなら今まで謎に思ってきたことに説明がつく。
「おまえは幼くて気がつかなかったようだが、あの屋敷の中に伯爵はリーリオを閉じ込め外に出さないようにしていた。普通、伯爵夫人ともなれば夜会に出たりするものだが、彼は彼女の体が弱い等と言って誤魔化してきたようだ。その為、影達も気がつくのに遅れた」
聞けば聞くほど母が不憫だ。あんな男に捕らわれていたなんて。
「済まなかった。マーリー」
「お兄さま?」
「おまえを早くあの屋敷から連れ出してやることが出来なくて」
「お兄さまのせいじゃないです。悪いのはあのパールス伯爵夫妻です」
「それでも──」
「もう終わったことです。止しましょう。わたしはお兄さまに会えて嬉しいです。それに母のことを聞かせてくれてありがとうございます」
「マーリー」
オウロの表情は暗かった。彼は影達の報告を聞いて何もかも知っているようだ。わたしがパールス伯爵夫妻にされてきたことを。その事を知ってもう少し早く助けてやりたかったと後悔しているのに違いなかった。
その気持ちをもらえただけ嬉しかった。あの時は自分が独りぼっちでどうしようもなく不幸だと惨めだと思っていた。でもいつしかサンドラという友達が出来てサーファリアスと会い、隣にはお兄さまがいてくれる。
皆が何かあれば助けてくれる。その自分がこれ以上、何かもらったら罰が当たりそうで怖い。今こうしているのも幸せすぎて、何か悪いことが怒らなければいいなと心配してしまうぐらいに恵まれすぎているのだ。
「パールス伯爵夫妻にあのエロ爺のところに危うく嫁がされそうになった時にはさすがにもう駄目だと思ったけど……」
「なにぃいいいい」
「大丈夫です。その時に助けてくれたのはサンドラとサーファリアスさまなんです。あの二人がいなかったならこうしてここにわたしはいません」
パールス伯爵夫妻と聞き険しい顔をしたオウロは、わたしがエロ爺に嫁がされそうになったと知ってベンチから立ち上がろうとした。それを止めながらも彼の必死の形相が可笑しかった。
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