第36話・サフィーラ国の事情
「さすがマーリーだな。みな言わなくても察することができる。その通りだ。やつらはリーリオに目をつけた」
「母は攫われて人買いに売られてしまった? そしてその間に何かの衝撃で記憶を失う羽目になってしまったと?」
「その通りだ。そして彼等は皇帝より斬首の命が下り処刑された」
母親がこの国に来るまでにそのような目にあっていたとは知らなかった。
「あのその母が記憶を失ったことにパールス伯爵が関わっていたりは?」
「それは無いようだぞ。二人が出会った時にはすでにリーリは記憶を失っていたようだから。でもまあ、あの男に引っかかったのはリーリオにとっては不幸だった」
「お兄さま?」
「記憶を取り戻したリーリオは自己嫌悪に陥ったそうだ。愛してもいない者を愛していた事にされていたことが許せないと言っていたそうだ」
「母は記憶が無い間、パールス伯爵を夫だと信じ込んで頼っていたのですよね?」
「その相手が自分を騙していたと知り、また自分も偽りの恋に絆されそうになっていたからな」
何となく母の気持ちが分かるような気がした。何も知らなかった頃はあのまま母と、父と慕っていたパールス伯爵と暮らしているのが幸せだと思っていた。
でももしかしたらあの屋敷にはわたしの知らない何か一面がありそうな気がする。あのパールス伯爵は母への執着が強かった。
「母はいつ記憶を取り戻したのでしょう? 何がきっかけで?」
わたしの問いにオウロは「さぁな」と言った。
「リーリオが記憶を取り戻したのは偶然だったらしい。サフィーラの手の者が、あの屋敷に出入りする商人の手を介してサフィーラの品物を見せていた時に、唐突に記憶を取り戻したそうだ」
「お兄さまは随分と詳しいのですね?」
オウロは母の心情に妙に詳しいような気がした。まるで見てきたように言うのが気になる。
「本人が母に話しているのを聞いた」
「お兄さまの母上様ですか? お兄さまの母上様と母は仲が良いのですか?」
「ああ。庶民的風に言うとツーカーの仲? らしいぞ」
「え? お兄さまの母上様は皇帝の正妃様ではないのですか? 母は近々立后させる予定だとパールス伯爵夫妻が断罪された日にはおっしゃっていましたよね?」
だからわたしはてっきり第一皇子であるオウロの母の身に何かあって母が皇后になるのかと思ったのだけど、その正妃が生存中でしかも母と仲が良いだなんて思いもしなかった。
母は皇帝の愛をせしめているようだし、オウロの母にしてみれば面白くないのでは無いだろうか?
「違うぞ。俺は皇帝の養子だ」
「え……?」
「俺の母は皇帝の妹でリーリオとは親友同士だった。皇帝はリーリオの事が忘れられなくてずっと独身を通してきた。帝位につくと跡継ぎがどうのと周りが煩いから皇帝は兄弟の中で一番仲が良かった俺の母に目を付け、母が公爵に嫁いで産んだ俺を養子に迎えた」
「じゃあ、お兄さまは正確にはわたしの従兄?」
「まあ、血縁関係で言えばそうなるな。そして現在は兄妹だ。皇帝は俺を養育してさっさと面倒な帝位を譲り、リーリオを自ら捜しに行こうとしていたから必死で影の者達は他国を捜し回った。ようやく9年目にしてリーリオの居場所を捜し当てサフィーラに連れて帰ろうとした日、あの女がやってきた」
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