第33話・お兄さまと一緒
「やあ。凄いねぇ。刺繍糸がこんなに沢山。ねぇ、サーファリアスくん」
「オウロさま。あなたさまに別に同行して頂かなくとも良かったのですが?」
翌日。オウロ殿下は馬車の前で待っていた。その為、オウロ殿下を連れて手芸店に来ることになった。馬車の中ではオウロ殿下がわたしの隣に座し、向かい側の席に、サーファリアスが着いた。
目的の手芸店の中に入ると、オウロはわたしの手を取って馬車から降りた。後から渋面を作りサーファリアスが続く。
店内は思ったよりも広かった。わたしの目的は刺繍糸だったが、そこに向かう途中、レース糸の棚の前に立つ美人を見つけた。
「ジェーンさま」
「まあ、マーリーさま」
「どうしてここに?」
「この店にはよく来るのです。あら、サーファリアスさまにオウロさま。ご機嫌よう」
彼女はわたしの連れに気がついた。サーファリアスは一礼し、オウロは笑いかけた。
「アマテルマルス国の麗しの女神さまに会うとは思わなかったな」
「まあ、口がお上手ですこと」
「心外だな。お世辞は言わないぞ。俺は。なあ、マーリー?」
「あ。ええ」
二人を見ていると、隣に並んだサーファリアスの視線が気になった。彼はジェーンを見つめていた。彼の整った横顔を見つめながら彼は以前ジェーンに惹かれていた事を思い出した。確か彼女に求婚して断られたと風の噂に聞いたことがある。
彼女はオウロの言ったように確かに美しい。女神様のように綺麗というのは大袈裟では無いはずだ。
「マーリーさまはここへお買い物に来られたの?」
「ええ。はい」
彼女に惹かれていたサーファリアスの心情を思い出し、何となく彼に誘われたからだなどとは言出せなくなった。そこへすかさずオウロが言った。
「向こうに刺繍糸があるみたいだな。俺は差してもらいたい文様がある」
「何の模様ですか?」
「サフィーラ国の紋章だ。鷹が両手を広げているやつ」
「高度な技を必要とするものを要求してきますね?」
「おまえは刺繍が上手いのだろう? サンドラという侍女から聞いたことがあるぞ。そんなに無理なことではないだろう?」
編み物や刺繍はパールス伯爵家にいた時から、アンフィーサに強請られてリボンを編んだり、ハンカチに刺繍していたりしたから得意だ。
そう言えばあの子はどうしただろうと思う。何も事情を知らされていなかった末の義妹だが、ダリアのように嫌みを言ってくることはなかったが頼られていたとは思う。
パールス伯爵夫妻に関しては自業自得だと思うが、ダリアやアンフィーサに関しては巻き込まれ事故的な感じに思ってしまう。そういう事をサンドラの前で言えばお人好しと馬鹿にされてしまいそうだけど。
刺繍糸の棚に移動して来るとサーファリアスは付いてこなかった。ジェーンと向こうの棚で話しをしているようだ。二人の話し声が聞こえてくる。
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