第31話・三ヶ月の猶予
彼を見送ってすぐにオウロから誘われた。
「今までの話しの流れから大体の事を察したと思うがリーリオ妃はきみに会いたがっている。俺と一緒にサフィーラに来てくれないか?」
「それは今すぐお返事しないといけませんか?」
「嫌なのか?」
彼は今すぐにでもわたしを連れて行きたさそうだった。でもわたしにとっては、いかなる事情があったとしても実母は自分を捨てていった人でしかない。そんな人に会うことに快くは応じられなかった。
どうしようかと思っていたらサーファリアスが言った。
「オウロ殿下。マーリー嬢に考える時間をあげてはもらえませんか? 彼女は9歳の頃にリーリオ妃と別れて暮らしてきたのです。先ほどの彼等との話を聞いていて思ったのですが、殿下達はいくら知らせを送っていたとしても彼女の手元には何一つ届いていなかったのです。9歳の子供から見れば母親に捨てられたようにしか思えなかったでしょう。それに唯一、彼女を守れる立場の父親があれでは彼女は誰の言うことも信じられないと思います」
サーファリアスはわたしの気持ちを汲んでくれるように言ってくれていた。その思いが有り難かった。継母に折檻を受けていても出なかった涙が浮かぶほど嬉しく感じられた。
「分かった。アンバー宰相がそう言うのなら考えよう。では三ヶ月猶予を与えよう。それまでに答えを用意してくれていると有り難いな」
「三ヶ月?」
オウロの言葉にルイ陛下が慌てた。
「明後日には帰る予定ではなかったのか? そんなに滞在する気かい?」
「別に良いだろう? 迷惑はかけない。ただの風来坊としてこの国にはお邪魔するよ。もともと今回、数名の供しか連れて来ていないしな」
「きみ、立場を理解している?」
「ああ。サフィーラ国の第一皇子だってのは分かっているさ」
「次期皇帝になるかもしれないのに?」
「うちはお前んとことは違うぞ。末子後継だからな。皇妃となるリーリオ妃が男児を産めばその子が継ぐ」
他の国では王の正妃が産んだ長男が継ぐのだろうけど、帝国では末子が後継者となるとオウロは言った。それは初めて聞く話で、わたしの他にもルイ陛下やサーファリアスが驚いていた。
「先に生まれた子よりも後から生まれた子の方が可愛いという自然の原理を利用した形だ」
オウロは当然のように言うが、末子が後を継ぐなんてなかなかないと思う。
「まあ、てなことでしばらく頼むな。ルイ」
「宜しくされてもな。サーファリアス。離宮は用意できるか?」
「では早速に」
「そんなのいらないよ。俺はマーリーと一緒がいい」
「は?」
他国の皇子が予定よりも長く滞在すると聞き、陛下は客間では無く離宮の方が良いかもしれないと考えたようだ。オウロ殿下は要人だから警備のことも考えたのだろう。それなのにオウロは拒んだ。彼の言葉にサーファリアスが目を剥いた。
「宰相宅にお邪魔させてよ。俺にこんなに可愛い妹がいたんだ。嬉しいよ。マーリーと会えなかった分だけ兄妹仲良く交流したい」
サーファリアスに懇願するオウロが、人懐こい大きな犬のように思えてきた。そう悪い人でも無いのかも知れない。
「マーリーが良ければ私は構いませんよ」
サーファリアスがこちらを見た。頷くとオウロが「おお、妹よ」と、大袈裟な身振りで両手を広げた。
「その先は駄目です。私から許可を取って下さい」
「何でだよ。俺はマーリーのお兄さまだよ。宰相」
「私はマーリー嬢の保護者です。彼女にとって安心できる者と判断出来るまでは過度の接触は禁止させて頂きます」
「ちぇっ。宰相って仕事だけじゃなくてプライベートも手厳しいな」
オウロの言い方が可笑しくて笑うと、皆に注目されていた。
「マーリー嬢は笑っている方が可愛いね」
「陛下も邪な発言は止して下さい」
「え? 褒めただけなのに? どれだけ狭量なの?」
頭を掻くオウロに困惑する陛下。そして軽く彼らを睨むサーファリアス。
「厄介な御方に惚れられましたね」
と、ジェーンが可笑しそうに耳元で囁いてきた。
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