第30話・下された処分
「パールス伯爵」
それまで黙って聞いていた陛下が口を開いた。言い合いをしていた父や継母は口を閉ざした。
「そなたは浅ましくもサフィーラ国の大公の娘リーリオ嬢が記憶を無くしていたのを良い事に嘘を吹き込み己の妻とした。その上、彼女の娘であるマーリー嬢を使用人として貶め、虐待していた。これは即刻処刑しても仕方ないことだ」
「お許し下さい。陛下。わたくしは知らなかったのです。マーリーがサフィーラの皇帝の娘なんて」
ルイ陛下の言葉に震え上がった継母が命乞いをする。父は黙っていた。
「その娘に鞭打ちしていたのは誰だ? この国では鞭打ちなど許可していない」
「あの、それは躾の一環だと母が言って。その、身分の高い者は低い者にそのような躾をするのは義務だと言っていました」
継母を庇おうとしたのかダリアの発言は火に油を注ぐ結果となった。ダリアの発言を聞いてオウロが陛下に言う。
「ほう。この国では身分の高い者が低い者をそうやって躾るのか? ルイ。ではそれなりの処分をこいつらに頼むぞ」
オウロは他国の者だから直接、この場でパールス伯爵達を裁くことは出来ない。それが残念だと顔が訴えていた。
「しかし今日は余の生誕祭だ。その席で血生臭い事はしたくない」
「それならこっちに送ってくれれば即刻処刑にしてくれる」
ルイは甘い。そう言いながらオウロは顔色を無くしているパールス夫妻やダリアを見る。
「いや、多少問題はあっても彼等はこの国の者だ。こちらで裁く。パールス伯爵は爵位と領地を没収。辺境送りとする。パールス伯爵夫人とダリア嬢はマーリー嬢を虐待していた罪で鞭打ち百回の刑に処す。アンフィーサ嬢は幼いので見逃すが、皆平民として親子四人仲良く暮らして行くのだな。連れて行け」
いつの間にか部屋の隅に待機していた近衛兵に陛下は声をかけ、呆然としているパールス伯爵夫妻や、嫌がるダリアを拘束させた。
パールス元伯爵夫妻は大人しく従ったが、ダリアは納得が行かないらしく「どういうこと? 私達が平民? 嘘でしょう? マーリー、あんた何とかしなさいよっ」と、泣き騒ぎながら近衛兵に引きずられるようにして退出して行った。
「きみにも迷惑をかけたね。きみは巻き込まれただけだ。退出して良い。ただ公言はしないように」
「はっ」
パールス伯爵達と一緒に入室してきて一人だけ残されたランスにルイ陛下は優しく声をかけた。ランスは席から立ち上がり「このようなお祝いの場を騒がせてしまったこと大変申し訳無く思っております。済みませんでした」と深々と頭を下げ退出して行った。
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