第28話・わたしの本当の父親は
「お許し下さい。オウロ殿下。わたくしは知らなかったのです。この国の貴族では見かけない紋章付きの手紙でしたし、リーリオと言う名に嫉妬したのです」
「さすが悋気で有名なことはある。そこまで愛されてパールス伯爵は幸せ者だな。マーリーは虐待されていたようだが?」
「ひぃっ……!」
継母の顔が引き攣りそうになっていた。わたしの母親がサフィーラ国の皇后になれば、その娘のわたしは皇帝の娘となる。その娘を鞭打ちしていたこともオウロは知っているような素振りだ。
「で、でも……。マーリーは主人とリーリオの娘で、皇帝とは血の繋がりはないですよね?」
「パールス伯爵。夫人には何も言ってないのか? マーリーは自分の子ではないことを」
「えっ?」
継母としてはまだわたしが皇帝の血を引いてなければまだ救いがあると思ったのかも知れない。でもわたしは父の子ではないと聞いて足下が揺らぐような気がした。ではわたしは母と一体、誰の間に生まれたというのか? 不安でしかない。青ざめるわたしにオウロが教えてくれた。
「マーリーはサフィーラの皇帝の娘だ。そして俺にとって妹となる。証拠はこの赤い瞳だ。この瞳は王族の血を引く証だからな」
「では母も?」
オウロの言葉に母の瞳も赤かったことを思い出す。わたしは母に似た容姿をしている。髪も瞳も。母の瞳が赤いのは王族の証では? と、言えばさすがマーリーだなと声が返ってきた。
「もちろんだ。リーリオ妃は皇帝だった大伯父が皇位を退かれた後に継がれた大公家の令嬢だった。でも世が世ならリーリオ妃の祖父が皇位についたままなら皇女殿下だった可能性もあっただろう」
「その母はどうしてこの国に?」
青ざめていくパールス夫妻を尻目にわたしは疑問を口にしていた。サフィーラ帝国はこの国から遙か向こうの国だ。母はその国からどんな経緯でこのアマテルマルス国へたどり着いたというのか?
「実はリーリオ妃は、当時婚約していた皇帝が兄皇子との後継者争いに巻き込まれたことで命を狙われていた。そして命からがら逃げ出して飛び乗った船がアマテルマルス国へ向かう船だったようだ。その頃には記憶喪失になっていて、その船に同乗していたパールス伯爵と出会い、彼の妻だと吹き込まれて下船したようだ。そうですよね? パールス伯爵」
そこからはあなた方が知る通りだとオウロに言われ、パールス伯爵は頷いた。継母は「泥棒猫」と蔑んできたわたしの母が、元々帝国の大公の娘だったと知り何も言えなくなっていた。ダリアも呆然としていた。
「リーリオは自分の名前以外は何も思い出せずに心細い思いをしていました。そのことに同情しつつ、あの頃の私は麗しい彼女に一目で惹かれました。そこで嘘をついたのです。自分はきみの夫だと。リーリオは半信半疑ながらも信じてくれて屋敷に連れ帰りました。両親はいい顔をしませんでしたが、彼女が妊娠していたのでそれを良い事に彼女のお腹の中に私の子がいると嘘を言えば、掌を返したように祝福してくれました。あのまま何事もなければ今頃も──」
父は深い後悔に苛まれていた。子供の頃は何も知らず母さえ、この屋敷を出て行かなければ自分は使用人のような生活を送らなくても済んだのにと恨んだこともあった。でも、全て違っていた。この父親だと思っていた人が何もかも歪めたのだ。
父は母に強く執着していた。それはどこか歪んでいて今にして思えば、母が自分を頼りにしているのを喜んでいるような節が見られた。
母が自分以外の者を頼ることを快く思わなかった気がする。父は母に依存して欲しかったのだ。それを自分への愛だと勘違いしていたのだろう。
母としては記憶が無い不安を、父が自分に向けてくれている愛で誤魔化そうとして、それでも何かのズレを感じ取っていたのかも知れない。
全て憶測でしか無いが。
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