第27話・実母が皇后?
「だってそれは仕方ないじゃない。マーリーが出来損ないなのは本当のことだもの」
「ダリア」
父は娘の言葉にあ然としていた。ダリアは社交界マナーを知らないようだ。学んでないのだろうか?
最近学び始めたわたしでさえ、自分よりも身分の高い方に声をかけてはならないし、会話の中に割って入るのはタブーとされている事を知っている。
もしかすると今日は陛下の生誕祭と言うことで、陛下に直接お祝いの言葉をいう機会を得ていたから、ダリアは勘違いしてしまったのだろうか?
陛下に身分問わず直接声をかけられるのは、生誕祭でお祝いの言葉を言う時に限るのに。
その為、国中の貴族が一言でも陛下と言葉を交わしたいと宮殿に集ってくるのだと聞いた。その場で騒ぎ立てようとしたのだから良く思われないのは当然だ。
「マーリーが出来損ないだと?」
オウロは室内の気温が下がっているように感じられるほど、低い声を上げた。ダリアは口を噤む。
「これ以上、マーリーを侮辱すれば、貴殿らが我が国の民でないと言え不敬罪で訴えるぞ」
「そんなあなたこそ私達に酷いことを言っていたじゃない」
「ダリアっ」
さすがに父も声を荒げた。これ以上、オウロ殿下を刺激しないでくれという思いが込められていたような気がする。オウロ殿下は冷たく父を見た。
「我が皇帝はリーリオ妃を寵愛している。彼女は近々立后する予定だ。皇帝はマーリーを引き取りたいと言っている」
「……!」
オウロの言葉に皆が驚いたが、当事者であるわたしはそれ以上に驚いた。
「なぜ? 今更わたしを?」
リーリオ妃と呼ばれるぐらいだから母は皇帝の妃の一人なのだろうと言うことは知れた。でも彼女はわたしが9歳の頃に屋敷を出て行ったきり音沙汰がない。
わたしにとってはもう赤の他人のように遠い人だ。それが何だというのだろう? 母が皇后となる? わたしには関係ない。
わたしの反応を見てオウロは顔を顰めた。
「パールス伯爵。貴殿はマーリーにわざとリーリオ妃から連絡が来ていたことを教えてなかったらしいな? こちらからの問い合わせに貴殿の元で最初に働いていた侍女頭や執事らが教えてくれたぞ」
なぜ教えてやらなかったのだとオウロの目は責めていた。
「申し訳ございません。あの頃はまだリーリオを失った悲しみから立ち直れていなかったのです」
「それなら最近まで連絡させなかったのはなぜだ?」
それは言い訳にならないだろうとオウロは言った。新しい家族を築き、もうリーリオの事は過去の事になっているはずなのにと。
「私は妻との結婚の際、屋敷のことは全て妻に任せる約束になっておりまして……」
「つまりリーリオ妃からの手紙はパールス伯爵夫人が踏み潰していたのか? リーリオ妃は一伯爵夫人とは立場が違うのだぞ」
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