第26話・オウロの正体


 貴族のお屋敷の応接間とは比べるまでもなく豪奢で広い一室。その中央に置かれた大きなテーブル。上座の席には陛下とオウロが付き、その脇にサーファリアス、ジェーンとわたしと続き、反対側の席にはパールス伯爵夫妻にダリアとランスが着いた。


「あなたどうして上座にいるの? ルイ陛下と並ぶだなんて失礼よ」


 皆が席に着いたところでさっそくダリアがオウロに向かって噛みついた。


「彼は構わないよ」

「陛下。護衛兵にも席を与えるなんて贔屓が過ぎませんか?」


 わたしは陛下の態度を見て、オウロはただの護衛兵ではないような気がしてきた。礼儀に煩いはずのサーファリアスが何も言わないのだ。

オウロはきっとそれなりの高い地位にいる方に違いない。五宝家、もしくは五宝家以上の地位の御方?


「だから言っただろう? ルイ。観察力の足りない人間とは身なりだけで相手を判断するものだってな」


 オウロはカラカラ笑った。ダリアは不愉快そうに見た。


「何を笑っているんですの? 気分が悪いわ」

「そうだろうな。俺の素性を知ったらさらに気分が悪くなるだろうよ」

「はあ? たかが護衛が何を言ってるの?」

「止せ。止すんだ。ダリア。申し訳ありません。失礼致しました」



 ランスも何となく察したのだろう。陛下の隣に座しているオウロはただ者ではないと。ダリアの代わりに何度も頭を下げていた。いつも彼は謝ってばかりいるような気がする。

 ルイ陛下は周囲を見た後で、深いため息を漏らした。


「ここにいる彼はサフィーラ帝国の第一皇子だ。皆、オウロ殿下に対して失礼のないように」

「この人……?」


 ダリアが絶句する。ランスやパールス伯爵夫婦は愕然としていた。サフィーラ帝国と言えば、この国アマテルマルス国の東側に位置する大国だ。

 その大国の王族に向けて散々、自分達が失礼な発言をしていたことを自覚したようだった。


「なぜ護衛の格好なんかしているのよ。紛らわしい」


 ダリアは自分達を誤解させたオウロが悪いと言いたげだ。その彼女に陛下は言った。



「ダリア嬢。きみは宮殿勤めを希望していたようだけどその態度では無理だね。宰相が採用不可にしたのが分かる気がするよ。きみは言葉も礼儀もなっていない」

「陛下。いつもはちゃんとしているんです。これはたまたまで……」

「たまたまで余達の会話に口を挟んだと? まずあり得ないな。パールス伯爵。貴殿はダリア嬢にどういう教育をされていたのかな?」

「陛下。娘が何か粗相でも?」



 少年王ルイは冷たく睥睨した。そこには王者としての片鱗が見えた。ダリアは震え上がる。

 父が不安そうに訊ね、オウロが応えた。


「確かにあれはない。ルイがマーリー嬢に言葉を掛けているのに、その中に割って入ってきたばかりか、マーリー嬢の悪口を言い始めた。あれではまず良い印象を持たれない」

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