第25話・泥棒猫の名前


「馬鹿にしないで。うちはちゃんとしているわよ。ただ、そこのマーリーがずる賢いだけよ」

「ずる賢いのはおまえの方だろう? 聞き捨てならないな」


 オウロが再び睨み付けるとダリアは黙った。ランスはオウロと目が合い、ガタガタ震えだした。


「あの。もう止しませんか? 皆さんが見ていますから……」


 この場が気まずくなってきて声を上げると「ダリア!」と、忘れたことのない甲高い声が聞こえてきた。


「ダリア。どうしたの?」


 そこに登場したのは継母だった。父は側にいなかったらしく一人で現れた。


「マーリー。あなたなのね? ダリアに何をしたの?」


 一方的に非難される。何もしていないのに責められて困惑した。継母はわたしがダリアを害したと思い込んでいた。誤解を解こうにも、相手が信じるようにはとても思えなかった。


「マーリー嬢は何もしていない。批難されるべきはあなたの娘ダリアだろう」


 今日会ったばかりのオウロが庇ってくれた。継母は面白くなさそうな顔をする。


「あなたは何者ですの? 我が家がパールス伯爵と知っての狼藉ですの?」

「あなたはリーリオを知っているか? パールス伯爵夫人?」

「知っていますわ。泥棒猫の名前ですもの」

「彼女が泥棒猫ならあなたは盛りのついた猫だったか?」「無礼な」


 パールス伯爵夫人は扇子を振り上げた。オウロは言った。


「そうやってマーリーを打ち据えてきたのか? 可哀相に。こんなにも震えて」

「……?!」


 オウロに指摘されて皆が注目する。わたしは知らず知らずのうちに体が震えていた。ジェーンが肩を抱いてきた。


「向こうに行きましょう。陛下、宜しいですか?」


 陛下の同意をもらい、ジェーンはこの場からわたしを連れ出そうとしてくれていた。それにダリアは悪意をぶつけてきた。



「陛下、皆さん、騙されないで。これがこのマーリーの手なのよ。この子は都合が悪くなるとこのように具合の悪いように見せて誤魔化すの。とんだ詐欺師よ」

「ルイ。切り捨てても良いか?」

「駄目だよ。これでも余の国民だ」



 護衛兵のオウロが物騒な提案を陛下に持ちかける。わたしはこのオウロが自分の為に庇うような発言をしたり、怒ってくれているのが謎だった。


「恩知らず。私達に迷惑ばかり掛けて。宰相さまに言い寄っただけではなく今度は陛下を懐柔しようというの?」


 パールス伯爵夫人はわたしを身持ちの悪い女にしたいようだ。

 そこへ冷静な声が割り込んだ。


「陛下。ここはお祝いの場ですよ。何事ですか?」

「サーファリアス」


 サーファリアスが人の輪をかき分けてやってきた。ここでわたしは大勢の人の目を惹いていたと知り愕然とした。


「皆さま。取りあえず別室にて話し合いましょう。パールス伯爵良いですね?」


 サーファリアスの言葉で、父が彼の側にいるのに気がついた。恐らく騒ぎが起きてからサーファリアスが父を連れてきたのだと思われた。

 父は了承し、継母は父が現れたことで口を噤んだ。その後、私達は大広間から応接間へと移動した。

 

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