第24話・マナーが出来てないのはどちらだ?
「ああ。嫌だわ。使用人風情がこのような場に顔を出すなんて」
それはわたしよりも年若い女性の声だった。彼女の連れが慌てて「止せ。ダリア」と、声をかけていた。
義妹のダリアが噴水公園で一緒にいたマトロ男爵の次男ランスだ。彼は不敬にも口を挟んだダリアの腕を引き、その場から慌てて辞そうとしていた。
「失礼致しました。陛下」
「なんで頭を下げているの? ランス。別に私達、何も悪くないじゃない?」
ダリアは陛下の生誕祭で社交界デビューをすると聞いていた。その為、ランスにパートナーを頼み参加していたのだろう。でも、自分より位の上の者に声をかけるのはタブーとされているのに、その上、他人の話に横から口を挟むだなんてマナーを学んでいるマーリーでもその行為は違反だと知れた。
陛下を始め、ジェーンやオウロが不快な様子を見せる。それにも関わらずダリアは気にしないようだ。ランスが下がろうと促しているのを拒み言った。
「陛下。その女には気をつけた方が宜しいですわ。その女は父を誑かした女の娘ですの。男を籠絡するのはお手のもので今はずーずーしくも宰相閣下のお宅に乗り込んで私達の悪口を吹き込んでいるのです。そのおかげで私は宮殿勤めの願いは叶わなかったのです」
ダリアは鬱憤をここぞとばかり吐き出す。ランスは悲痛な顔をしてダリアの名を呼ぶ。
「何よ。ランス、煩いわね」
「煩いのはおまえだ。そこの女、どこの娘だ?」
強気のダリアにオウロがねめつける。陛下付きの護衛とは偉いのだろうか? 態度が陛下よりも大きく思えた。陛下にそれを咎める様子はない。
ダリアは相手が陛下の護衛と見てか鼻を鳴らした。令嬢らしくない態度だ。
「わたし? わたしはパールス伯爵令嬢ダリアよ。よく覚えておきなさい」
「ああ。忘れたくとも忘れられないさ。パールスと言えば我が敬愛する父の最愛の女性を誑かした男の家だからな」
「誑かした? お父さまが?」
護衛は意味不明なことを言った。ダリアも覚えがないらしく首を傾げる。
「リーリオと言えば分かるか?」
「リーリオ?」
ダリアは反応しなかった。彼女は生まれる前の事だから記憶がないのは当然だし、母親に言われるがままにわたしを貶めてきたのだから、あの継母曰く「泥棒猫」の名前には興味がないのかもしれない。
「きみは知っているようだな?」
オウロはダリアに向けた険しい目線とは違い、柔らかな眼差しを向けてきた。
「はい。わたしの母の名前です」
「やっぱりそうか。ルイ。見つけたよ。この子だ。この子がそうだ」
オウロが宝物でも見つけたような顔で言う。わたしがぽかんとしている側でルイ陛下は良かったねと微笑んでいた。ダリアは不服そうに言った。
「たかが陛下の護衛が何様のつもりですの? 陛下の名前を呼び捨てにして。マナーがなっていませんわ。そんなにマーリーが欲しければ差し上げても宜しくてよ」
「マナーがなってないのはどっちだ? 使用人として貶めていたマーリーの方が賢いし、マナーも良く出来ている。パールス伯爵家の使用人とは主人よりも使用人の方の出来が良いのだな?」
オウロが笑った。彼の発言を聞いて周囲の者達も失笑していた。皆がダリアの態度を見て好ましくないと思っているようだった。
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