第23話・面白い令嬢と言われても褒められた気がしません
その手は直接わたしに振り下ろされる事はなかった。ぴしゃりと彼女の頬に液体がかかり、そちらにメアリーが気を捕らわれたせいで動きが止まっていた。
「あっ。ごめん。メアリー」
「ギルバード。もうっ」
「きみの元へ早く届けようと気が急いたせいで躓いてしまった。ごめんよ。僕のせいだ。このままだと風邪を引く。着替えに行こう」
「ちょっ……!」
「さ、早く。メアリー。シミになるよ」
ギルバードはメアリーの手を引いた。激高しかけていたメアリーは気が削がれたようで、彼に引きずられるように連れて行かれた。
何だかギルバードに助けてもらったような気がしないでもない。
「マーリーさま。不快な思いをさせてご免なさいね」
「ジェーンさまのせいではないです。ジェーンさまが謝ることではないですよ」
「メアリーさまは私に敵対心を持っているの。だから私と一緒にいたあなたを良く思わなかったのだと思うわ。でもまさかあなたが言い返すことは思ってもみなかった」
「少し言い過ぎましたかね?」
「ううん。全然。言ってもらって良かったわ。聞いててスカッとしたもの。思わず笑いそうになっちゃったわ。丁度よくギルバードがワインを掛けてくれて良かった。あの時の彼女の顔見た?」
「ええ。メアリーさまはずぶ濡れになっていましたね」
二人で顔を見合わせて笑っていると、脇から声が上がった。
「何やら楽しそうだね? ジェーン」
「陛下」
壇上で皆からお祝いの言葉を受けていたはずの陛下がすぐ側にいたので驚いた。その陛下は一人の護衛を連れていた。黒髪に赤い目をした男だ。年の頃はサーファリアスよりも少し上だろうか? 赤い瞳が物珍しくて陛下よりもそちらの男性の方に気が惹かれた。
慌てて頭を下げようとすると必要ないと拒まれてしまったばかりか、ジェーンに紹介を頼まれてしまった。
「ジェーン。きみの新しいお友達を余にも紹介してもらえるかい?」
「もちろんですわ。ルイ陛下。こちらはパールス伯爵令嬢のマーリーさまです」
ジェーンは陛下に喜んで応えた。いきなり雲の上の住人に紹介されて恐縮してしまった。
「初めましてだね。マーリー嬢。でもきみのことはサーファリアスやギルバードからよく聞いているよ。頑張り屋で面白いご令嬢だとね」
「面白いですか?」
何だか複雑な気分だ。それって褒められているのだろうか?
「陛下。そちらの……」
「ああ。彼? オウロと言うんだ。宜しくね」
ジェーンは訝る様子を見せたが、それにルイ陛下は被せるように言ってきた。
「どうかな? マーリー嬢。楽しめているかな?」
「はい。このような舞踏会なんて初めて参加したのでワクワクしています。物語の1ページを見ているみたいで目がチカチカします。あ……」
今のはどことなく馬鹿っぽい発言ではなかったかと口元を押さえると、陛下や護衛のオウロからは微笑みが返ってきた。
「なるほど面白い令嬢だ」
それにはこちらを馬鹿にしたような態度は見られなかったと思う。するとわたし達の話を横で聞いていた人物が声を上げた。
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