第21話・悪役令嬢メアリー登場


 わたしはきらびやかな宮殿内部に目が釘付けになっていたが、そのうちに周囲の人から注目されているのに気がついた。


「ほら。ご覧になって。ギルバードさまとジェーンさまよ」

「お二人ともお似合いねぇ」

「本当にね。さすが運命で結ばれた恋人ね」

「あのお二人と一緒にいるご令嬢はどなたかしら?」

「さあ? お見かけしない顔ね。ジェーンさまのお知り合いなのかしら?」



 こそこそと噂する声が聞こえてくる。わたしはジェーンやギルバードと一緒にいるおかげで、二人のお邪魔虫になっているような気がしてきた。


「ねぇ、ジェーン」

「なにかしら? ギルバード」

「きみはどうして僕の贈ったドレスを着てくれてないの?」

「あれは仕舞ってあるわ」


 ギルバードに問われたジェーンは苦笑していた。言われてみれば、許嫁同士というのはお互いの髪色や瞳の色を使った衣服を着る物だとサンドラから聞いていたが、ギルバードとジェーンの二人の装いは共通した色がなかった。ギルバードは深緑色の夜会服を着ているし、ジェーンは目が覚めるような青い地に銀の刺繍が入ったドレスを着ていた。


 ふたりとも美男美女なので二人並んでいると眼福で、着ている服の色があっていようがなかろうがそんなことが気にならないくらいお似合いなので誰もそのような些末な事には拘っていなそうだけど、ギルバードだけは気にしていたようだ。


「どうして?」

「あまりにも素敵すぎたからよ」


 自分には勿体なさ過ぎて着れなかったのだと言うジェーン。ジェーンの言っている言葉は嘘か本当か分からないけれど、彼女は彼を軽くいなしていて、それをギルバードは不満に感じているようだった。


 目に見えない溝が二人の間に出来ているようで、その二人の間に挟まれている自分は居たたまれなかった。

 そこへ「あら。ギルバードじゃない?」と、声をかけてきた人がいた。赤いドレスに身を包んだ派手な容姿の女性だ。赤茶の髪にザクロ色した瞳をしている。

 王妹を母親に持つジェーンを前にしても臆することなく堂々とした態度にもしや?と思う。


「やあ、メアリー」

「メアリーさま。ごきげんよう」


 突如現れた彼女に対し、気安い態度のギルバードと、堅い態度で挨拶をするジェーン。二人の反応は違っていた。

 その二人を可笑しそうに見るメアリー。ギルバードにはにこやかな笑顔を浮かべておきながら、ジェーンを見る目は少しも笑っていなかった。そればかりか彼女を無視してギルバードに話しかける。


「ギルバード。この人は?」

「彼女はマーリー嬢。訳あってサーファリアスが預かっている。紹介するよ、マーリー嬢。こちらはレッドルビー家のお姫様メアリー嬢だよ」

「ふ~ん」

「メアリーさま。初めまして」


 挨拶して顔を上げた途端、険しい目つきとかち合った。嫌な視線だ。なにこの人? と、思いつつも初めて会った気がしない。どこかであったような……と、思えば「彼女は悪役令嬢だ」と頭の隅で何かが囁いたような気がした。



──悪役令嬢メアリー!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る