第20話・前作のヒロインに会いました


 宮殿につくと入り口でギルバードが待っていた。


「やあ。宰相閣下にアンバー家のお姫様。皆さま、お待ちかねだよ」

「余計な事を言うな。ギルバード」

「はいはい。陛下がお待ちだよ。来たらすぐに顔を出して欲しいってさ」

「分かった。不本意だが私が戻るまでマーリー嬢を頼む」

「了解。任せられた」



 お調子者のギルバードと堅物なサーファリアスは、性格は何一つ似てないのに気が合うようだ。お互い顔を見合せてすぐにポンポン言い合う。

 サーファリアスは陛下が呼んでいると聞き、わたしをギルバードに預けて陛下の元へ急いで行った。そこへ入れ替わるようにして美しく凜とした風情のご令嬢が現れた。


 銀色の髪に空のように澄んだ青い瞳に、彼女が何者なのか嫌でも思い知らされる。わたしは彼女に直接会った事はないけど、前世の記憶で覚えていた。


 ジェーン・シルバー。ときめきジュエルクィーンの前作のヒロイン。五宝家の姫さまらしく高貴で見目麗しかった。わたしなど彼女の前に出たら付け焼き刃的な令嬢にしか思えない。



「ご機嫌よう。ギルバード。そちらにいらっしゃるのはもしかして?」

「サーファリアスのいい人だよ。紹介するね。こちらはジェーン・シルバー嬢。五宝家のパール家のご令嬢。そしてこちらはマーリー・パールス嬢。訳あってアンバー家でお世話になっている」

「ギルバードさま」



 サーファリアスのいい人だなんて言っては誤解されてしまうと断ろうとしたのを、ジェーンさまは困ったように見た。 


「初めまして。マーリーさま。あなたがマーリーさまでしたのね? サーファリアスさまから話は窺っております。今夜はわたくしと一緒にいましょうね。ごめんなさいね。ギルバードは人をからかうのが好きなしょうもない御方なの。代わりに謝ります」

「ジェーンさま。とんでもない。止めて下さい。わたしはマーリー・パールスです。このような華やかな場は不慣れなのでどうぞ宜しくご指南下さい」


 気分を害させてごめんなさいねと、なぜか大貴族のご令嬢であるはずのジェーンに謝られて居たたまれない気持ちにさせられた。その隣でギルバードは平気な顔をしていた。彼等の態度の違いにそういえば彼女はギルバードの許婚だったなと思い出した。

 サーファリアスが時々食卓で「あいつはジェーン嬢に尻拭いばかりさせて……」とぼやいていた。


 ギルバードは困ったちゃんか。そう呟くとジェーンに聞こえていたらしく笑われてしまった。


「面白い御方ね。マーリーさまは。ご指南だなんて。今宵は楽しんで頂ければ光栄だわ」

「ありがとうございます」

「では広場に向かいましょうか?」


 わたしは大人しくジェーン嬢に従った。わたし達の後をギルバードも大人しく付いてくる。

 初めて見る宮殿は王都にあるパールス伯爵邸からでも見えたから大きいのは分かっていたけど、大広間は兎に角広かった。

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