第19話・そうは言われても気になります
ため息を漏らすと、ギルバードが慌てて言った。
「サーファリアスはダンスが苦手なんだ。あいつは人前で踊ろうとはしない。多分、きみを生誕祭に参加させようとしているのは、きみは社交界デビューもまだだって聞くし、単純に生誕祭の様子を見せてあげたいって気落ちからだと思う。万が一、誰かと踊る羽目になっても僕が責任を持ってパートナーを務めるから」
「本当に大丈夫ですか?」
「問題ないって。問題あるのは僕の足くらいかな?」
きみに踏まれて使い物にならないかも知れないからと言われる。何気に酷い人だ。
「でも楽しみだよねぇ。ルイ陛下は今度の生誕祭で成人される。陛下に見初められようと着飾る令嬢達も増えるだろうな」
「そうですねぇ」
わたしには関係ない話だ。興味もないし。ただ当日、同行者のサーファリアスの足だけは引っ張らないようにしなくてはと思った。
生誕祭当日。王都に花火が打ち上げられた。ルイ国王陛下十五歳のお誕生日だ。我がアマテルマルス国は少年王ルイを掲げていた。
ルイ陛下は子供の頃に不幸にも父王と、母親である王妃を亡くし、叔父だった教皇の後見を得て王位に就いた。
サーファリアスも宰相として王の補佐をしている事もあり普段から忙しかった。
休日以外は大概、宮殿に詰めている。ここの所、屋敷への帰りは深夜に及ぶようで起きている時間にお会いしたことはなかった。
今日は朝早くからサンドラに起こされてお風呂に入れられて生誕祭に参加する為の支度をさせられていた。
多くの使用人達の手を介して出来た姿にまたもや呆然とした。あの華麗な宰相閣下の隣に並んでも見劣りしないような令嬢に出来上がっていた。
「凄いわ。皆さん、ありがとう。魔法に掛けられたみたいよ」
姿見に映る自分を何度も確認してしまう。これが自分とは信じがたくて何度も確認せずにはいられなかった。
今日はレモン色のドレスを着せられ、すっきり高く結い上げられた髪にはサンフラワー色した花の髪飾りが散らされていた。噴水公園に出かけた時の装いよりも華やかだ。
「このドレスはマーリーさまの為に、旦那さまがご用意されたものですよ」
宝飾品は琥珀のネックレスにイヤリング。彼の瞳のように透き通っていて綺麗だった。
玄関先で先に支度の調ったサーファリアスは待っていると聞き向かうと、いつもより格式高い服装に身を包んだ彼が待っていた。襟付きのジャケットは少し落ち着いた配色のマスタード色。金糸で襟や袖口に刺繍で刺繍がされていて琥珀が縫い付けられていた。首に巻かれたクラバットには大粒の琥珀が輝きを放つ。彼が着ている服は正装に違いなかった。
「マーリー。綺麗だ」
「サーファリアスさまこそ素敵です」
お互いに褒め合って馬車に乗り込む。
「生誕祭って国中の貴族達が集うのですよね? わたし心配です。何か粗相をしてしまわないかと……」
「大丈夫だ。その辺は信用ある女性にきみのことをお願いしておいたから安心してくれていい」
「はい」
昨日は興奮のあまりよく眠れなかった。サーファリアスのパートナーなんて荷が重い。なるべく彼の汚点にならないように振る舞わなければと思っていた。
「緊張している?」
「え? あ、はい……」
「そう堅くならなくてもいい。別にとって食おうなんて思ってないからね」
「は……はい」
そうは言われても気にはなる。サーファリアスに微笑みながら表情が硬くなってはいないかとそればかり考えていた。
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