第18話・推しは踊らないようです


 ステップが乱れていたよと苦笑するギルバードに、恐縮して答えればくすくす笑われた。金髪の見目麗しいこの屋敷の当主を思い浮かべるだけで心臓がどきどきする。


 胸元を押さえていると「あーあ。どうしてそんなに自己評価低いかなぁ」と、サンドラの呟きが聞こえたような気がした。



「きみって面白いね。あの鉄仮面が表情を壊したくなるのが分かったような気がする。気に入ったよ」

「ギルバードさま。マーリーに必要以上に近づかないで下さいよ。この子は異性に免疫ないんですから」

「分かっているって。ぼくには愛しのジェーンがいるから不実な真似はしないよ」

「どうだか。あまり浮名を流し過ぎると、ジェーンさまに嫌われてしまいますよ」

「ぼくはジェーン一筋だよ。信じて」



 お調子者のギルバードにもサーファリアスは鉄仮面認定されていた。そのギルバードを警戒するサンドラ。ギルバードはひょうひょうとしている。信じてという男に限って信用なら無いものだと思う。大体、彼の場合口調が軽すぎて本気で言っているのか分かりにくい。


「それよりさ、マーリー嬢はルイ陛下の生誕祭に参加するんでしょう? 当然サーファリアスにエスコートしてもらうんだよね?」

「ふぇ? そうなんですか?」


 そんな話聞いてない。朝食の場でルイ陛下の生誕祭があと数日後に近づいていることは聞いていたけれど、サーファリアスと一緒に参加するなんて言われていた? 初耳なんですけど。


 ダンスは女官教育の一つだと思って何の疑問も持たずに受けていた。サンドラを見れば気まずそうに目を反らされた。


「もしかしてこのダンスって生誕祭に参加する為の練習だったりして……とか? まさかね?」

「聞いてないの?」


 嫌な汗が背中に流れた。ギルバードが呆れた目を向けてきた。


「僕はそうなのかと思っていたけど? 違ったかな?」

「うそ。わたしがサーファリアスさまと? ないないない……」

「おーい。どうしちゃった? 帰ってこーい」

「無理、無理です。どうぞわたしのことなど放っておいて下さい」


 あの華麗な推しと一緒に宮殿の生誕祭に参加するの?

確か国中の貴族達が集まると聞いたし、各国からの王族も参加されると聞いている。

 そんな大勢の前に彼と一緒にこのわたしが出る? 嘘でしょう? 深く思考の底に沈み込もうとしたのを引き上げられた。


「大丈夫だって。あいつ踊らないから」

「本当?」

「ああ」


 ギルバードは、きみをエスコートするサーファリアスが踊ることもないだろうから、きみは同行者としてただ生誕祭を見ていれば良いんだよと言う。

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