第16話・女官をしてみないか?
馬車に乗り込んでからサーファリアスに聞かれた。
「何か彼らに言われたのか?」
「わたしは男性に媚びて生きることしか出来ない娼婦まがいの女が産んだ娘だと。どうもダリア嬢は、わたしがサーファリアス様と一緒にいたのが気に食わなかったようです」
「彼女の言うことなんか気にしなくていい。彼女はきっと宮殿への出仕が望めなくなったからきみに辛く当たったのだろう。悪かったね」
ため息を漏らすと、サーファリアスは慰めてくれた。サーファリアスはダリアがわたしに八つ当たりしたのは、自分が宮殿への出仕に便宜を図らなかったせいだろうと言った。
「いいんです。彼女の言っていることにそう遠からずな部分もありますから」
「もしかしてきみの母親のことを気にしているのかい?」
ダリアに実母のことを悪く言われて反論出来なかったのは、その通りだと認めている部分があるからだ。母は父より若い男性が迎えに来て、手に手を取るようにして出て行ったのだ。
「やっぱりわたしは令嬢として暮らすよりも、使用人として暮らす方が性に合っているような気がします」
「そうかな。私の前にいるきみは令嬢として素晴らしい人だと思うよ」
「わたしのことをサーファリアスさまは買いかぶりすぎです」
ダリアが言った通り、身の程にあった生活を送るべきでは無いかと思っている。サーファリアスの好意で今はお客様然としているけれどそろそろ使用人として戻った方が良いような気がする。
「これはマーリー嬢にはもう少し経ってから話すつもりだったのだけど、ゆくゆくきみには宮殿付きの女官をしてもらおうかと考えていた」
「下女ではなくてですか?」
「なぜきみを下女に?」
サーファリアスが訝る様子を見せた。わたしはダリアに言われたことが気になっていた。
「わたしには教養がないからです」
「教養はこれから身につけていけば良い事だよ。きみには丁度、これから学んでもらおうかと思っていたところだしね」
今までわたしは使用人として育ってきたから令嬢としての教育は受けてない。ダリアに言われるまでもなく、その土台さえ出来てないのに、高位貴族や王族らに仕えるなど到底無理のような気がしてきた。
「ご令嬢方だって皆、学ぶことにはなるよ。人に仕える立場と言うものを。王族や自分より高位の方へ失礼があってはならないからね。きみの場合はすでに実践済みだから後は教養を身につけるだけだ。他のご令嬢方よりそんなに時間は掛からないと思う」
サーファリアスは即戦力になる人が欲しいと言ってきた。
「わたしは日頃から礼節は大切だと思っている。きみはそこが出来ている人だと思う。きみは女官向きだと思うよ。どうかな? やってみないかい。教育のことなら心配しなくていい。一流の講師を付けてあげよう」
「サーファリアスさまは、どうしてそこまで良くして下さるのですか?」
「きみは気がついてないかも知れないが、きみには生まれ持った品格と言うものが備わっている。どこにいてもそれはきみを損なうものにはならないよ。私はきみに期待している。やってみないか?」
「そこまでサーファリアスさまに言われたならお断りするのが難しいですね。どこまでご期待に添えるか分かりませんがわたし、やってみます」
サーファリアスはわたしにとって悪夢のような生活から救い出してくれた恩人だ。彼の期待には応えたいと思う。彼がそう望むならその通りにしてあげたいと思うし、何よりこのお客様状態の生活が自分には勿体なさ過ぎて暇を持て余していた。
それなら自分が出来ることをしていた方がいい。彼の要望にわたしは快く応じることにした。
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