第15話・義妹との遭遇

 ダリアには連れの男がいた。瑠璃色の髪に黒色の瞳をした若者。彼には見覚えがあった。確か継母の妹の息子でマトロ男爵の次男ランス。時々、パールス伯爵邸に遊びに来ていた。

その彼はわたしをじっと見た。


「あれ? きみってパールス伯爵邸で働いていたよね? 確かアンフィーサ付きの侍女でなかった?」

「お久しぶりでございます。ダリアお嬢様。ランス様」


 取りあえず挨拶をしようと頭を下げると「止してよ」と不機嫌な声が飛んできた。


「あなた上手いことやったわよね。宰相様に取り入るなんて。おかげでこちらは恥をかかされたわ。お母さまはお怒りよ。今まで育ててやった恩を仇で返すなんてってね。出来損ないのくせにっ」

「止めないか。ダリア」


 公園を訪れる人は少なかったが、彼女の声は大きくその場にいた人々の興味を引いた。人目を感じたのかランスが止めに掛かる。


「いいご身分よね? 遠目に見たけど一緒にいたのは宰相様かしら? 蛙の子は蛙って言うけど所詮、男性に媚びて生きることしか出来ない娼婦まがいの女が産んだ娘よね。あの御方はね五宝家のご当主様なのよ。あなたのような何の教養も無くて下賎な女が隣に侍っていい御方では無いの。身の程を知りなさい」

「ダリア。一体、どうしたと言うんだ?」


 ダリアはヒステリックぎみに言う。さすがはあの継母の娘だと思っていると、ダリアは泣きそうな顔になってきた。彼女にとって使用人として見下してきたわたしが、憧れの宰相閣下と一緒にいたのを見て面白く思わないのだろう。

 彼女の不機嫌の理由が思い当たらないランスは戸惑っていた。


「いくらあなたが腹違いの姉だとしても、私はけして認めないから」

「えっ? この人がダリアの姉? 叔父上、浮気していたのか?」

「違うわよっ」


 ランスはわたし達のやり取りを見て、意味が分からないといった顔をしている。彼は事情を知らされてないようだ。恐らくわたしのことは、彼らの父親世代や、もしくは祖父の世代が上手く隠してきたのだろう。


「マーリー。どうした?」


 そこへサーファリアスが足早に戻って来た。わたしの隣に来るとダリアとランスを見据えた。


「私の連れに何か用かな? パールス伯爵令嬢。マトロ男爵子息」

「宰相閣下?」


 サーファリアスの登場にランスは目を剥き、ダリアの腕を引いた。


「失礼致しました。何でもありません。さあ、行こう。ダリア」


 ランスはダリアの腕を引く。彼女は嫌々しながら引きずられるようにして連れられていった。

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