第14話・はた迷惑な継母


「はた迷惑な人ですね」

「本当に。それに夫人はしでかしてくれたようだよ。伯爵に断られるとは思わなかったようで王家主催のパーティーで、パールス伯爵に捨てられたと泣き喚き、当時の王に言上した事で他の貴族達に注目されてしまった」

「そんなに派手な騒ぎを起こされたのなら他の方々の記憶に残りますね」

「ああ。そんな母親のいる娘を出仕させては問題が起こりかねない。一応、現在の夫人の状況を調べて娘がまともに育っているのならばと採用も考えたが、きみの状態を見るに良くは思えなかった」

「でも彼女はわたしの事を知らなかったはずです」



 サーファリアスは宰相としての立場から公平にダリアを見ようとしていたようだ。その彼女を庇うわけではないが、ダリアやアンフィーサはわたしが使用人に貶められてから生まれてきた子だ。当人はわたしが腹違いの姉なんて知らないはず。



「いや。知っていたようだ。それもサンドラが調べてくれていた」

「えっ?」

「彼女は怒っていたよ。夫人やダリア嬢やアンフィーサ嬢はきみのことをわざと名前で呼ばなかったらしいね? 他の使用人の事は名前で呼んでいたようなのに。しかも夫人は娘達にきみの事を泥棒猫の娘と吹き込んで悪口を言っていたらしい。ダリア嬢達はそれを鵜呑みにしていたようだよ。休憩時間や就寝時間に構わず用を言いつけてきみをこき使っていたようじゃないか」

「名前で呼ばれなかったのはわたしだけ? 休憩がなかったのはわざと? わたしが泥棒猫の娘?」



 サーファリアスから聞かされた話は、自分が想像していたものと全く違っていた。


「そんな……!」

「きみをもっと早く保護していればと悔やまれてならない。しかも夫人はきみを虐待していたそうだね? 済まなかった」

「サーファリアスさま。あなたのせいじゃありません。頭を上げて下さい。わたしはあなたさまに助け出されて幸せなんですから」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」


 わたしの前で頭を下げた彼は、顔をあげると力なく微笑んだ。それは自信家の彼にしては珍しい態度ものに思われた。違和感を覚えたが彼の次の言葉に気を向けることになった。


「だから先日通知を出したがダリア嬢の採用は不可にした。彼らの事は同情するに値しないよ。自業自得だ」


 わたしはパールス伯爵家では厄介者でしかなかったようだ。卑劣な相手と早々に見切りを付けて良かった。あの人達と分かり合おうなんて初めから無理だったのかもしれない。


「つまらない話はここまでにしよう。腹が立つだけだからね。きみマドレーヌは好きかい? 向こうの売店で薔薇の形をしたマドレーヌが売られている。買って帰ろうか?」

「はい。好きです。サンドラ達にお土産で買って帰りましょう。サーファリアスさま」


 サーファリアスはわたしのショックを見て取ったのだろう。話題を変えるように売店のことを口にした。パールス伯爵家の義妹達に関しては、正直ショックだったが彼女らに対して心の精算は終えた。初めから家族ですらなかった相手に期待したって無理だっただけだ。

 サーファリアスと共に売店に向かう。そこで花のマドレーヌを買ってもらい、迎えの馬車の様子を見に駐車場の方へサーファリアスが向かっていった時の事だった。一人大人しく彼を待っている所に声をかけてきた者がいた。


「あなたマーリーよね?」

「……ダリ……」

「どうしたんだい? ダリア。急に先に歩いて言ってしまうから……」

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