第13話・父達の婚約破棄騒動

 サーファリアスはそういったことを嫌う人だと思っていたのに優しかった。自分だけが特別扱いでもされているかのように錯覚を覚えるほど。

彼の機嫌は良さそうなので他にも気になっていたことを聞いてみることにした。


「あの。どうしてあの屋敷にサンドラがいたのでしょう?」


 彼女はサーファリアスに命じられてあの屋敷にいたと言っていた。彼女は一年ほど前にパールス屋敷にやって来た。諜報活動をしていたと言っていたし、何を探っていたのか気になってきた。


「サンドラにはあの屋敷の様子を探ってもらっていたんだ。パールス伯爵から娘のダリア嬢の宮殿での行儀見習いの申請が上げられていたから」

「なるほど」


 この国の若い貴族令嬢は、社交界デビューの年齢を迎えると同時に行儀見習いとして宮殿勤めを願い出る者も少なくない。許婚のいない者達は社交界で相手を見つけようとするが大抵、そこに出席する者にはパートナー(許婚)がいる。

 手っ取り早く婚姻相手を見つける場として宮殿勤めは人気が高かった。宮殿に勤める者ならば身元がしっかりしているし、女性には宮殿勤めという経験があった方が釣書に箔が付くらしかった。


「でも彼女の採用はないな」

「なぜですか? サルロス伯爵のことがあってですか?」

「まあ、それもある」


 母方の伯父とは言え、サルロス伯爵が犯罪を起こしたからその影響で彼女の採用はなくなったのかと思ったらそれ以外にも理由があるらしい。


「採用は無理だ。貴族社会は狭い。出仕してもきみの件や、母親のことで注目されては嫌な思いをするだろう」


 サーファリアスは、ダリアは不採用だと言った。わたしには心当たりがあった。



「パールス伯爵がわたしの母と一緒になる為に起こした婚約破棄騒動ですか?」

「知っていたのか?」

「継母によく詰られましたから。おまえの母が現れなければ自分はあれほど惨めな思いはせずに済んだと。長い間父のことを思い続けていたのに、突然目の前に現れて父の心を攫った母が憎いと言われてきました」

「きみも知っているだろうが、パールス伯爵夫人は悋気が凄すぎた。その点については伯爵がお気の毒としか言えない」

「パールス伯爵がお気の毒ですか? あの人と幸せな家庭を築いているのに?」



 わたしのなかではもう父は無用の存在と成り果てていた。サーファリアスの言葉に信じられないと言えば、当時は大変だったらしいと言われた。


「もともと伯爵はきみの母親と恋仲だった。そこに横やりを入れてきたのがあの夫人で、きみの母親の素性が知れないことから自分を正妻にし、彼女を愛妾にすればいいと伯爵に突きつけた」

「あの人はパールス伯爵の許婚ではなかったのですか?」

「幼い頃から思い込みが激しかったらしい。伯爵とは幼馴染みで父親同士の仲が良く、口頭で将来大きくなったら娶せるのも良いかと酒の席で言っていたのを本人が鵜呑みにしていたらしい」

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