第11話・童話の世界のようで
薔薇のアーチをくぐるとあちらこちらに薔薇の木が点在し、甘い芳香を放ってくる。素焼きのタイルが敷き詰められた小道を行くと、その先は人工で作られた大きな池に繋がり、池には真っ白で優美な橋が架けられていて中州に島があった。
そこにあるのは白木で組まれた八角形の東屋。池ではカモたちが陽光を受けてキラキラと輝く湖面を悠々と泳いでいた。
「まるで童話の世界のようですね。カモたちも気持ちよさそう」
「きみは面白いことを言うね。ではこの童話の世界の主人公はきみだね。きみに付き添う私の役どころはなんなのかな?」
「そうですね。頼もしい騎士様というところでしょうか?」
「騎士か? 悪くない」
わたしは前世の記憶を取り戻してから、実際に目にしているこの世界が夢の国のように思えてならなかった。
思ったまま口にした言葉を、サーファリアスは笑って付き合ってくれた。
「それではマーリー姫。あの東屋までお手をどうぞ」
「お願いします」
サーファリアスに手を差し出される。エスコートなんて彼が初めての相手だ。こんな経験生まれて十六年間、ううん、前世でもしたことがない。夢のようだ。
お姫様のようにエスコートしてもらい、東屋へと向かう。丁度そこでは先に来ていたらしい一組の男女が去って行くところだった。
遠目に男女のうち女性の方と目が合う。何となくダリアに似ていた気がした。去って行く彼女の後ろ姿を見送るとサーファリアスに顔を覗き込まれていた。距離が近かった。胸が飛び跳ねる。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
そう言いながら気になったことがあった。確かこの公園でイベントがあったような気がするのだ。ヒロインがサーファリアスとお出かけして頬を赤らめるようなシーンがあったような? 確か東屋で──。
「マーリー嬢。どうぞ」
「はい」
サーファリアスは東屋に入ると、自分の持っていたハンカチをベンチに敷いてくれた。これか──!!
こんなこと前世でも異性にやってもらったことない。サーファリアスは紳士だ。彼がやるから絵になる。
彼がパールス邸に乗り込んできた時に前世を思い出し、わたしはこの世界が自分のやっていた乙女ゲームの世界だと気がついた。でも、最後まで攻略してなかったと思うのにどうだろう。
彼に連れ出されてやってきた噴水公園でのイベントも思い出した。もしかしたらわたしはこのゲームを終えていた? すぐに思い出せないのは厄介だけど、後から取りこぼしたような部分の記憶が蘇る。
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