第7話・お互いにご免なさい
「ようこそ。お嬢様。お部屋にご案内させて頂きますね」
「サンドラ。あなたどうしてここに?」
「説明は後ほど致します。まずはお部屋の方へどうぞ」
宰相のお屋敷に着くと出迎えた使用人の中にサンドラの顔を見つけて驚いた。サンドラは宰相に命じられて、わたしを部屋まで案内する事を仰せつかり、先に立って歩き出した。
彼女は自分の知るサンドラに間違いないのに、よそよそしい口調が一線を引かれたようで寂しく思われた。彼女は客間に案内するなり頭を深々と下げてきた。
「マーリーお嬢様。今まで何も知らなかったとは言え、失礼な態度を取り申し訳ありませんでした。お許し下さい」
「サンドラ。止して。わたしはあなたとそのような関係を望んでないわ。今まで通りに話して欲しいわ。ダメかしら?」
サンドラにはわたしの素性について話していなかった。でも知られていたようだ。もしかしたら宰相から何か聞かされていたのかも知れなかった。
その彼女はわたしの言葉に顔を上げた。
「マーリー、いいの? でもあなたの立場もあるから二人きりの時限定でもいいかな?」
「もちろんよ。あなたとはお友達だもの。あなたが宰相様をあのお屋敷に呼んでくれたのでしょう?」
ここは五宝家。大貴族だ。他の貴族達の頂点に立つだけに使用人教育も徹底しているのだろう。先ほど出迎えに出てくれた使用人の多さに目を剥いたばかりだ。
わたしは名ばかりの伯爵令嬢。サンドラは以前からこの屋敷の使用人としていたかのように馴染んで見えた。ここでは彼女の立場もあるだろうから無理にとは言えない。それでも彼女とは伯爵邸にいたときのように友情を育みたかった。
「マーリー。間に合って良かった。ごめんなさい。私、あなたに隠していたことがあるの。実は私は元々ここの屋敷の使用人なの。サーファリアスさまに命じられてあのお屋敷に潜り込んでいたのよ。黙っていてご免なさい」
「やっぱり。そんな気がしたのよ。でもそのおかげで助かったわ。あのサルロス様の愛人にならずに済んだもの。あなたのおかげよ。ありがとう」
「あの後、実はね駄目元でパールス伯爵様にあなたのことを相談に行ったの。でも、それを奥様に目撃されて立ち聞きされていたみたい。その場で解雇通告を出されて屋敷を追い出されたわ。だから慌ててサーファリアス様にお頼みしたの。私の友人を助けて欲しいって」
サンドラはわたしの知るままだった。友人思いの彼女はわたしを救うために雇用主である宰相に頼んでくれたらしかった。
「私のことなど放っておいて良かったのに。でもあなたは五宝家のご当主様にそのようなことお願いして大丈夫なの? お咎めとかないの?」
「さすがマーリーは優しいね。大丈夫よ。サーファリアス様とは乳兄弟だから」
「乳兄弟? じゃあ、あなたも五宝家の血筋の?」
サンドラに胸張って言われて驚いた。ゲームの中でそんなセリフなかったような気がする。もしかしたら最後までやってなかったから、プレイヤーだったわたしには知らない事情がこれからポロポロ出てくるかも知れない。
「違うわよ。うちはアンバー家のお抱え騎士団の騎士長をしている家系なの。このお屋敷では母が侍女頭をしていて、わたしは侍女をしながら時々諜報活動もしている」
「サンドラは凄いのね。ビックリした」
「いや。あの鉄仮面に言いように扱われているだけよ。でもこれは他の人には言わないでね」
「うん」
サンドラが諜報活動なんてこれも知らなかった情報だ。あ然とするとサンドラは口元に人差し指を当てた。内緒にしてねと言う彼女に頭を縦に振って応える。でも鉄仮面ってサーファリアスのこと?
「それにしてもあなたに何もなくて良かった」
「サンドラ。ありがとう」
サンドラのおかげでわたしは最悪な展開から逃れることが出来た。彼女がいてくれて良かった。感謝しか頭に浮かばなかった。
「それにしてもサンドラ。あなたがあの屋敷では人見知りを装っていたみたいだけどそれは嘘だよね?」
「まあね。その方が色々と都合が良かったから」
「まあ」
すんなりと認めたサンドラにしてやられた気がしたが悪くない気分だった。部屋に二人の笑い声が響いた。
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