第9話 金ぴかの時代


南北戦争で北軍が勝ったことは連邦制のもとで、近代産業社会に向かって強力に国家を作っていくことを意味した。大陸横断鉄道の建設、電信網の敷設、鉄鋼産業の勃興、テキサス油田の開発、独占資本、金融資本が成立しヨーロッパ列強に伍する国力を急ピッチで作り上げていくのである。

党派的には共和党が政権を担い、民主党は南部の地方政党の体を呈することになる。リンカーン以降の大統領は圧倒的に共和党であった。リンカーンが暴漢に銃撃されたので、副大統領から昇格したアンドリュー・ジョンソンは民主党であるが、南部州の脱退で、辞職せず唯一連邦議会に残った南部出身上院議員であった。


第22代大統領のグロバー・クリーブランドは16代リンカーンからセオドア・ルーズベルトまでに至る間で最も大統領らしい能力を備えた人物とされている。民主党で再選は叶わなかったが1期置いて再び返り咲いた唯一の大統領である。18代のユリシーズ・グラントはあの南北戦争の英雄グラント将軍である。2期勤めたが、数々のスキャンダルおよび汚職により、歴史家からアメリカ最悪の大統領のうちの一人とされている。20代のジェームズ・ガーフィールドは暗殺された二人目の大統領で在任期間は6か月と短命であった。25代のウィリアム・マッキンリーは2期目に入った1901年、無政府主義者の暴漢によって暗殺された。マッキンリーは米西戦争で勝利し、キューバを保護国、フィリピンを植民地にし、ハワイを併合した大統領で知られる、そのあとを継いだのが副大統領だったセオドア・ルーズベルトである。


南北戦争終了から1890年にかけては「金ぴか時代」と揶揄されている。


南北戦争後から急成長をとげたアメリカ資本主義は、1880年代に独占資本の形成が進み、工業生産は1894年には世界一となるまでに発展した。こうした資本主義の急速な成長の下、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー、石油王ジョン・ロックフェラー、銀行家ジョン・モルガン、鉱山王マイアー・グッゲンハイムなど名立たる富豪が輩出した。一代で巨富を築くといったアメリカンドリームが現出したのである。その裏では、各種の企業合同、特にトラストが成立し、大資本家が政府と結び、汚職や政治への介入が続くなど独占資本の弊害があらわになってきた。

金ぴか時代とは、浮付いた好況と拝金主義を皮肉り、こうした経済の急成長と共に現れた政治経済の腐敗や不正を批判した文学者マーク・トウェインが同名の小説から取った時代名称である。ヘンリー・アダムスは「市場が宗教に取って代わった時代」と評した。


セオドア・ルーズベルトと次に述べる民主党のウッドロウ・ウィルソンは革新時代の大統領とされる。ともに、独占資本主義・トラスト同盟によって生じた社会問題を、公共の利益という観点から連邦政府が介入・調整する役割を持つとした

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