思惑、得たもの

 梅乃さんと出会ったことは良くある事だ。私だけが体験している事じゃ無い。世界中捜せばこんな経験をしてる人はいくらでもいる。

 でもコンビニバイトの人から友達にステップアップ出来たのは私にとって大きな進歩だと思っている。

 そして梅乃さんは小さい頃の話をしてくれた。不思議な夢を日記に記していたらしく、それが自分の前世なんじゃないかと言っていた。

 私もあるかもしれないと言ったけど、私は何も持っていないから自分の部屋を探してもあるはずがなかった。

 でも隣の部屋にはある気がした。私と違って何でも持っている兄の部屋なら。

 誰もいない兄の部屋を探す。使っていない物は全て天袋にあると言っていたから真っ先にそこを漁った。奥からいくつも段ボールを引っ張り出した。


「何してんの、芳」


 探すのに夢中で兄が仕事から帰っていたのに気づかなかった。

 兄はこんなことで怒らない、シスコンだから。

 兄はタンスを開けて着替えを取り出した。お風呂に行くらしい。


「昔使ってたノートとかない? それとあんた、小さい頃日記とか書いてない?」


「卒アルとかと一緒にノート類はまとめてるから、あ、この段ボールだ。ていうか俺の黒歴史漁って何がしたいの?」


「彼女作る」


 兄はその彼女大変だなと鼻で笑って着替えを持って階段を降りた。

 教えられた段ボールの中には学生時代に使っていたノートが綺麗にとってあった。

 私はこの中から古いノートを見つけた。

 どうやら兄も梅乃さんと同じように夢をノートに記す習慣があったようだ。しかも、きっとこれは同じ夢を見ている。

 梅乃さんは兄と前世で恋人同士だったのだ。そんなこと絶対に許さない。梅乃さんは私の好きな人だから。

 このノートだけ取り出してあとは全部元にあった場所にしまった。

 ノートを持って兄のところに急いだ。兄はお母さんと一人暮らしのことを相談していてまだお風呂には入っていなかった。


「どうしたのそのノート、お兄ちゃんのじゃない?」


「あ、見つかったんだ、お目当てのやつ」


 ずるい。昔から何でも持っていて、友達も彼女も、何もしていないのに自然と人が集まる人間。それに前世のあんたは私の好きな人と付き合っていた。

 私の方が頭が良くて成績が良いのに兄の方がよく褒められて、私はもっと出来るって。一人暮らしするならさっさと出て行けばいいのに。

 だから私は、何でも持っている兄にこう告げた。


「この日記、私に頂戴」


「別にいいぞ上手くいったらその彼女、ちゃんと紹介しろよ」


「するわけないでしょ」


 よし、これで私は梅乃さんの運命の人になれる。


「何? 芳、彼女出来るの? 告白するなら焦っちゃだめよ。上手くいったら教えてね、お赤飯炊くからさ」


 お母さんのその言葉で思い出した。

 私、テスト期間だ。デートに誘えない。しょうがない、気長に待とう。



 梅乃さんは私を家まで送り届けて自分の家に帰って行った。

 リビングに行くとお母さんが夕飯の準備をしていたら。お父さんと兄はまだ帰っていなかった。


「おかえり。どうだった、プロポーズ出来た?」


「うん、付き合うことになったよ」


 そう言うとお母さんはお赤飯にして正解ねと喜んでいた。


「もし彼女がご両親に反対されたらいつでもうちに来なさいって言ってね。相談に乗るからって」


「うん、ありがと。先にお風呂入るね」


 自分の部屋に戻りベッドに沈む。

  ごめんなさい、梅乃さん。私は良い子なんかじゃないです。

 私は誰よりもあなたの近くに居たくて嘘を吐きました。大好きなあなたに嘘を吐いた時は心苦しくて、あの時は思わず涙が溢れてしまいました。

 それでも私は、あなたの傍にいたい。

 私はあなたの運命の人ではないかもしれないけど、私が前世の恋人以上の存在になります。

 この嘘がいつかバレてもいいです。今まであなたと一緒の時間を過ごすことが出来ただけで私は幸せだから。

 その幸せな時間は、私だけでなく、あなたもきっと同じだと信じています。

 だから、私の嘘がバレても『前世なんか関係ない、一緒にいて欲しい』と言ってくれる事を願います。

 どうかあなたの気が済むまで、私と末永く。

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前世日記 こめ処 @katori-senko

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