一緒に 3
「はい、言いました。私は梅乃さんが好きです」
改めて言われてしまった。
社会人になってから初めて告白された。人生で初めて女の子に告白された。
芳ちゃんのことは好きだ、可愛くて優しくてとても良い子。私にはもったいないくらいの。ただそれは恋愛感情だろうか。
私は今までどんな気持ちで男性と付き合ってきたんだろうか。胸を張って好きだと言える人たちだったのだろうか。多分、断ることが悪いことだと思って全部受け入れた。
だとしたら彼女のことも受け入れるべきなんだろうか。でも今までの人達は長続きしていないから止めた方がいいのだろうか。でも断ったら彼女は、私が女の子だから、高校生だからと言ってくるのだろうか。そもそも彼女は正式に恋人になろうとは言っていない。いや、だとしたらなぜ好きだと伝えるのだろうか。
人として、大人として、どんな答えが正しいのだろうか。
もう正直に伝えよう。
「…………芳ちゃん、私、分からないんだ。私も芳ちゃんが好きだよ。でも、そしたら私たちは付き合うのかな? 付き合ったら友達のままじゃ出来ない事をするの? こんなことを聞かれるのは気持ち悪いかもしれないけど、芳ちゃんは私とそれがしたいの? 前世で恋人だったかもしれないけど、だから今でも一緒ならないといけないの? 芳ちゃんは、私が男性じゃなくてもいいの? 何も分からないんだよ……」
駄目な大人でごめんね。
最後にそう付け足した。涙は出なかったが、押し潰されるように苦しくて息が詰まるようだった。肌寒い。
「たくさん考えてくれてありがとうございます。私、それだけで嬉しいです。もし付き合えたら私は幸せ者ですね」
私はずっと下を向いているけれど彼女が目を合わせるようにしゃがんで私の手を両手で包んだ。
彼女の瞳はまっすぐこちらを見ているのがよく分かる。そのまっすぐで純粋過ぎる視線に気圧されて、思わず逸らしたくなってしまう。
彼女はまた優しく笑っている。
「私、梅乃さんが苦手なこと、嫌なこと、怖いこと絶対にしたくないです。体も、とりあえず私が来年卒業するまで考えなくて良いと思います。そんなことより、私は梅乃さんの笑顔をずっと見ていたいです、ずっと楽しくお話がしたいです。私の中で梅乃さんは誰よりも特別です。なので好きだと伝えました」
芳ちゃんはもう泣いていなかった。格好いいなぁ。
温かいな。
「梅乃さんの中の私は、他の友達や会社の同僚と一緒ですか?」
「……特別だよ、芳ちゃんは」
私も芳ちゃんの手の上に重ねた。
そんなことを言ってくれるのは、あなただけですよ。
「……一緒に、隣に居てもいいの?」
「はい、今までよりもっと近くで、お話ししましょう」
「……芳ちゃんと、お付き合いしても、良いの?」
「はい、恋人になりましょう」
彼女は上から包むように抱き締める。私もおずおずと抱き締めた。
辺りはもうすっかり夜になっている。
しばらくそのままだったが、どちらともなく腕をほどいた。
顔を見るとやっぱり芳ちゃんは笑っていた。
「そんなに嬉しいの?」
「えへへ、もちろんです。ものすごく嬉しいです」
芳ちゃんが嬉しいなら私も嬉しいよ。
「そっか。暗いしもう帰ろうか、家まで送る。あと、はいこれ」
「あ、忘れてました」
彼女はベンチの上に置きっぱなしだった私の日記を持ってきて渡してくれた。私も彼女の日記を返す。
この公園は広いけど街灯が少なく、道路の方が街灯が多くて明るいのだと知った。遊んでいた親子連れはもう帰っているようだ。
「……あの、手を握ってもいいですか?」
薄暗い中で手をそっと伸ばしてきた。抱き締めた時は躊躇わなかったのに今は少し緊張しているようだった。
私は右手でその手を掴んだ。
「いいよ、このまま帰ろっか」
「はいっ」
やっぱり彼女は温かいな。
私は空を見上げた。雲が少しかかっているが今日は満月らしい。
ここは夕陽だけじゃなく月も綺麗に見える場所なのか。確かに良い場所だ。
そういえば、彼女はこの日記を読んでも『私達は運命で結ばれているふたり』的なことは言わなかったな。聞いてもいいだろうか。
「あのさ、芳ちゃんは前世の恋人だから私と付き合うの?」
彼女は少し考えてから違いますよと笑った。
「私、日記を見つける前から梅乃さんのこと好きでした。ただそれだけだと私と付き合ってくれないかなと思って日記を持ってきたんですけど、お互いその記憶はないし、確かめようがないから必要なかったかもしれないですね」
街灯で彼女の顔がよく見えるようになった。
「でも良いきっかけになりました」
「日記みたいにどちらかが先に死んじゃうことはないかな?」
「それは大丈夫ですよ。日記の2人より幸せになりますよ」
握っている手を絡めてそう言った。
そうだね、いつまでも幸せでいられたらいいね。
私はこれから母をどうやって説得しようかと考えた。真剣に考えなくてはいけないのになぜか嬉しくなってしまう。
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